12期・10冊目 『食い詰め傭兵の幻想奇譚1』

食い詰め傭兵の幻想奇譚1 (HJ NOVELS)

食い詰め傭兵の幻想奇譚1 (HJ NOVELS)

内容紹介

二度目の人生を異世界で」の著者が贈る最新作!! 世話になっていた傭兵団が壊滅し、生き残ったロレンは命からがら逃げ出した先で生計を立てるために冒険者になるという道を選択する。だが知り合いもなく、懐具合も寂しいロレンではろくな依頼も受けられそうにない。これは、初心者冒険者に転職した凄腕の元傭兵の冒険譚である――。

小説家になろう」のファンタジー作品の中では現時点で一番更新が楽しみ(毎日更新!)と言える作品です。「なろう」では定番とも言える転生・転移は無し。ズルなチート能力も無し。あくまでも主人公の能力とそれまで培ってきた傭兵経験での鍛え上げられた戦闘能力、戦場で得てきた感覚が持ち味というのが良いです。
Web版はこちら。
食い詰め傭兵の幻想奇譚
所属していた傭兵団が壊滅し、かろうじて身に着けてこれたのは愛用の大剣とわずかな小銭のみ。
まさに食い詰め傭兵として、街に流れてきたロレンは生計を立てていくために冒険者となったというのが冒頭のシーン。
しかし組むパーティも無く、たった一人では報酬の良い稼ぎができようもなく、仕方なしにドブさらいでも受けるしかないかと思っていたところで、ゴブリン討伐の依頼を受けたサーフェという優男が前衛として臨時に加わらないかと誘ってきたのでした。
しかし、サーフェの他は3人の女性だというこのパーティが問題大有り。
3人の内2人はサーフェに気があるのが見え見えで、さや当てしあっているどころか、ロレンに対して敵意を隠そうとはしない。唯一ラピスという名の神官の少女のみがまとも*1
道中ではあろうことか、テントの中で3人睦事に夢中になって、見張りを忘れる始末。
肝心の討伐の最中に生えている薬草に気を取られたり、逃げ出したゴブリンを追いかけて、罠とも考えずに洞窟に突入すると言い出したり、と冒険者としては初心者のロレンから見ても思慮の足りなさが目立つのでした。
どう考えても嫌な結末しか想像できない中でも文無しのロレンは放り出して一人逃げるわけにはいかず、仕方なしに付いていくのですが、案の定ゴブリン集団の待ち伏せ・挟み撃ちに遭ってしまい・・・。


前半はロレンが偶々一番近くにいたラピスだけは連れだすことができて、洞窟の奥へと遁走するまで。その過程でラピスは実は魔族であることを告白。ただしその強い能力を制限した状態で経験を積むために四肢と瞳を人造のものに取り換えられて、人族の領域にばらまかれたそれを見つだす目的で旅をしていることを聞き出します。
後半は洞窟の先に魔力建材で作られた古代遺跡の中に入り込み、そこで出会った白銀級のパーティと共に脱出を目論むも、ここでまたゴブリンの大集団や、より強力なゴブリンもどきの襲撃に遭ってしまう。
最初から最後までロレンの騒動巻き込まれ体質がいかんなく発揮される内容です。
それと後々読者から指摘されるラピスのヒロインならぬ、ヒドインぶり(笑)が垣間見られ、読んでいる方としては二人の仲を応援というよりもロレンに同情したくなってしまう展開でもあります。
ちなみに最後に幕間が追加されていますが、本編の内容としてはWeb版とは大差無い模様。


文章としては淡々としていて感情表現などは抑えめで落ち着きがあるところが著者の特徴といえましょうか。
それゆえ、戦いを生活の糧にする傭兵にありがちな粗暴さはさほど見られず、どこか達観としているロレンと魔族であることを含めて色々謎めいたラピスに合っています。それでいて、両者のやりとりにところどころユーモアもあって楽しめます。
逆にロレンが達観しすぎて、まだ若い(おそらく二十歳を過ぎたばかりくらい)のにいやに老成した雰囲気を感じてしまうきらいがありますけどね。
途中参加のリッツたち白銀級のパーティにしても、冒頭のイラスト付きにより一人一人のキャラがとてもイメージしやすかったです。
今後、ロレンの騒動巻き込まれ体質にも磨きがかかっていくのが楽しみです。騒動の度にどこかが滅ぶけど(笑)

*1:馬車代が払えないことに焦っていたロレンの心中を慮ってこっそり銅貨を貸してくれたし。