12期・6冊目 『旭日、遥かなり4』

旭日、遥かなり4 (C・NOVELS)

旭日、遥かなり4 (C・NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)

連合艦隊はマーシャル沖の海戦に勝利。加えてフィリピンの制圧を果たし、南方作戦を完了した。日本軍は損傷艦の修理、搭乗員の補充を行い戦力の回復を図る。その最中、戦艦「大和」の慣熟訓練が終了した。連合艦隊長官・山本五十六は、世界最大戦艦の戦力を背景に、米国との早期講和を狙うが…。一方、欧州では新たな攻勢が始まっていた。ロシア軍はソ連領のイルクーツクを占領し、ドイツ軍も最重要拠点である不凍港・ムルマンスクを猛攻。ソ連は重大な危機に直面する。風雲急を告げる世界情勢の中、ウェーク島に米爆撃機“ドーントレス”の影が迫る―!

長大な航続距離を活かして、史実では太平洋戦線での偵察勤務に投入されるはずであった二式大艇がドイツとの連絡機となって、レーダーなど貴重な先進技術を持ち帰ることに。
シベリア戦線では制空権を握ったロシア帝国による攻勢が始まり、T34に苦杯を舐めさせられつつも、見事イルクーツクを攻略しました。
ムルマンスクを始めとする英米からの支援窓口となる拠点はドイツ軍の航空機に戦艦ティピッツまで投入した作戦により徹底的に破壊され、せっかく届いた支援物資は前線に届くことはありません。
東西からの攻勢により苦境に陥るソ連軍。
一方で太平洋方面ではマーシャルでの大勝利後、日本軍も艦隊は母国に帰って修理・補給を受けていたために一時の静謐を保っていました。
しかし大西洋側から2隻の空母の増援を受けた米艦隊はハルゼー率いる任務部隊により、新たな作戦を開始しようとしていたのでした。


今回はまず世界的な状況として日独間、および連合国間の変化が書かれました。
潜水艦ではなく、二式大艇を連絡機として使用するのは当たり前のようで意外なアイデアです。もっとも、本作世界ではソ連が弱体化してモスクワまでドイツに占領されているので可能になったというのもあるでしょう。
何と言っても潜水艦を使うより、よっぽど時間短縮にはなるので、交流促進にはもってこいです。これで日本の電子技術が捗ることでしょう。
その反面、日本から渡された二式大艇はドイツにとっては防弾の弱さとか、大きさの割には搭載量が少ない点で即時導入とはなりませんでしたが。
さらにソ連ロシア帝国との均衡が破れたのが目新しい点。まだまだ先ですが、もしもこのままロシア帝国が西進し続けてドイツ占領地帯まで迫ったら?という不安要素が残りました。
山本五十六GF長官の肝いりで提案された対米講和について、直接依頼を受けた永野(修身)軍令部総長だけでなく、東条首相も含めて意外と日本の首脳陣が反対せずに進められることになったなと思いました。
しかし、一旦開いた戦端を納めるのは難しく、アメリカの態度はけんもほろろという態度。やっぱり当時の状況として、日米の単独講和はほぼ無理なのかなぁと。それにしても知米派である山本長官にしても見通しが甘かったということは、この時代の日本人がどれだけアメリカのことを理解していかですね。


メインとなる航空戦はほぼ米軍が先手を打ったために、日本軍は後手に回った感がありました。
ネタバレすれば、結果的に日本軍の勝利ではありますが、戦力的に有利であったのに正規空母撃沈など、無視できない損害もあって、重苦しさが残りましたね。
日本側は建造中の大鳳の後に戦時型空母(おそらく雲竜級)の建造が示唆されましたが、アメリカ側のエセックス級インディペンデンス級が増産されてくることから、戦力比はあっさり覆ることが目に見えているわけです。もはや長期化は避けられないこの戦争をどう戦うのか。
このあたりの戦術に関しては今までのシリーズの焼き直しっぽくなって、著者の読者としては目新しい面はありません。
せいぜいロシア帝国が存在し、日米は単独で戦っているという面で戦略がどう動くかですかね。