12期・2冊目 『富士山噴火』

富士山噴火

富士山噴火

内容(「BOOK」データベースより)

陸自のヘリパイロット・新居見充は3年前の平成南海トラフ大震災の際に妻と息子を失った。たったひとり残った家族―東京で医師として働く娘とは絶縁状態。今は御殿場の養護老人ホームで働きながら喪失と悔恨の念に苦しんでいる。ある日、旧友の静岡日報の記者・草加が「富士山の噴火が近い」という情報を得る。「御殿場市は、全市民の避難が必要になる!」古巣の自衛隊、消防や警察などを巻き込んで、新居見が中心となった避難計画が動き出す―。噴火予測年は2014年±5年、想定死者数最大1万3千人、被害総額2兆5千億円ともいわれる、直近かつ最大の危機に真っ向から挑むとともに、父と娘の絆の再生を描き出す、感動のノンストップ防災サバイバル・エンタテインメント!

TSUNAMI』を始めとする災害三部作の続編であり、平成南海トラフ大震災の際に自衛隊のヘリパイロットとして救出に大活躍、英雄として表彰されるも、同じ頃に被災した家族を助けることはできずに妻と息子を失い、たった一人生き残った娘(東京で心臓医として働いている)とは家族を見捨てた父親と見なされて絶縁状態の男性が主人公。富士山の裾野に広がる御殿場市の老人施設「ふがくの家」で施設長として働いていました。


ある日、計測機器の点検に付き添った際に樹海の穴に異変が生じていることを目にします。
そして友人の新聞記者の伝手で日本防災研究センターの女性火山学者から話を聞いて、具体的に富士山の噴火の兆候が出ていることを知って愕然とするのです。
そうなると、火口から一番近い上に地形や風向きなどからすぐに火山噴出物の被害に遭う地元御殿場市では全ての市民の避難が必要になってきます。
特に主人公の勤め先にいる老人、病人の避難は非常に難しく、下手に動かすことで容体が悪化することが考えられる上に受け入れ先の協力も必須となるわけで。
偶然、母親が施設に入っていることから市長と面談し、一刻も早く避難計画を立てることを提言。しかし、富士山直下であることは観光が市の重要産業であることも事実。
商店街や市議員たちの抵抗もあって、避難計画はスムーズにいかないのでした。


前半は忍び寄る富士山の異変の予兆。そして思うようにいかない避難計画の様子が描かれます。
そこは数々の災害を手掛けてきた著者らしい詳細な描写が噴火の際に起こりうる大混乱を想起させるのです。
頻発する地震や、道路の地盤沈下、水蒸気噴出などにより、噴火が近づいてきたことを確信した主人公は実際に避難命令が出てからでは遅いと知己が司令を勤める自衛隊駐屯地から訓練の名目で静岡までトラックを使って施設の老人を避難させることにします。
その道中で富士山が小規模噴火(水蒸気噴火)。
県外から見に来ていた車が多数あったために渋滞に巻き込まれつつも、何とか送り届けることに成功。
火山灰や火山岩が市内に降り注ぎ、ついに死傷者が発生したことで、途方もない危機が迫っていると判断した御殿場市長は全市民の避難を決断したのでした。


後半に入って本格的な噴火が迫る中での自衛隊による必死の避難支援が始まる頃から展開も加速していき、惹きこまれていきます。
本来は退役した民間人でありながら八面六臂の活躍を見せる主人公が熱い。
医者として現地入りした娘が父親に救われた施設の人たちに感謝されて、さらに観測機器修理のために富士山に登っていた婚約者を救出してもらうなど、心情的に父の凄さを理解してゆく過程で物語的にも盛り上がっていきます。
富士山噴火の脅威を多角的に捉えていた前半と比べて、後半は主人公の活躍どころが映画の危機一髪の連続で、エンターテイメントとしては盛り上がりますが、災害ものとしてはどうなのかと思う点でもありますが。
噴火の影響としては、富士山以南の交通手段が全滅して日本が東西に寸断されたことや関東へも飛来した火山灰の被害(電子機器の故障や健康被害)など、多大ではあります。
ただし、被害状況の描写が淡々としすぎて、噴火の後に高速度で迫りくる火砕流と火砕サージの恐ろしさが伝わりにくかったですね。
後半はほとんど主人公視点に絞られてしまった弊害か、唐突に自衛隊のヘリ集団が登場したりと国がどう災害に向き合って動いているのかがよくわからなかったです。*1


いずれにしても、噴火による山体崩壊で双子富士となったのが興味深いです。
そもそも富士山はれっきとした活火山*2であり、1万年以上に及ぶ長い歴史の中で、何度も噴火により形を変えてきたのだという(最後の本格的な噴火が宝永大噴火(1707年))。
災害パニック小説としてはいろいろと脚色されている部分はありますが、もしも宝永大噴火なみの噴火が起こったら、日本全体を揺るがす大災害になるであろうことは心に留めておく必要があると思える内容となっていますね。

*1:気象庁の記者会見はあるが、事実をきちんと把握してなくて頼りにならない

*2:1990年代までは休火山として教えられていたために噴火しないと誤解している人が多そう