11期・65冊目 『地球の静止する日』

地球の静止する日 (角川文庫)

地球の静止する日 (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

「上には上がいる」とよく言うが、地球上の生物のなかで頂点にいる―と思い込んでいるだけかもしれない―人類。その人類のまえに、還宇宙や異次元から、はるかに高い知能や文明を持つ種族が不意に出現したとき、何が起きるのか?かれらは人類に恩恵をもたらしてくれるのだろうか?(「地球の静止する日」)これまでに映像化された作品を集めた、SFスリラー傑作選。

映画化された「地球の静止する日」を始めとする様々な趣向を凝らしたSF短編集となります。
表題作はたぶんリメイクされた方の内容を何かで知ったせいか、いわゆる異星人パニックものと認識していたのですが、原作はまったく違うのですね。原題「Farewell to the Master」の方が内容的には合ってるけど、日本で映画公開するには直訳じゃシンプル過ぎたのでしょう。
収録作品は以下の通り。


地球の静止する日」(ハリー・ベイツ)
宇宙から飛来した宇宙船。人間に似た異星人がロボットを従えて姿を現した時、狂人の発砲によって異星人は死亡してしまい、ロボットはそのままの姿勢で停止。
宇宙船を覆うようにして博物館となり、日々観客が押し寄せていたが、そこに忍び込んだ記者は誰もいない夜中にロボットが何らかの動きを見せるのではないかと監視していたのですが・・・。
最後までどうなることかとハラハラさせられた末に発覚した衝撃の事実。
高度な文明を持っている異星人は地球の人々のことなどとっくに理解していたのはともかく、星が違えば常識も変わるってことが思い知らされる結末でした。


デス・レース」(イブ・メルキオー)
あらゆる娯楽が消費された近未来のアメリカで人気の都市間自動車レース(通称デス・レース)は走行中に撥ねて殺した人数もポイントとして加算されるというルールがありました。
前回優勝者の主人公は今回もポイントのためにあえて高速道路を外れて田舎町に寄っては市民を撥ねていたのですが、ある女性の恨みの声が頭から離れなくなってしまいます。
人々を楽しませるための娯楽目的が倫理観を超えてしまった時代の中、戸惑い動揺してしまったドライバーの悲劇といったところでしょうか。
収録された中ではさほど捻りや意外性は無かったですね。


「廃墟」(リン・A・ヴェナブル)
忙しい生活に追われていた男の夢はゆっくり本を読むこと。
突然襲った天変地異(大地震?)により、地下金庫にいた男以外はほぼ死に絶えたかに見えた街の中、男は長年の夢を叶えるために図書館に向かうも・・・。
本好きで強い近視な自分にとってはとっても怖い話。
時間が無くても視力が衰えても本が読めるようになればいいなぁ。


「幻の砂丘」(ロッド・サーリング&ウォルター・B・ギブスン)
新たなるフロンティアを求めて南部から西部へと荷馬車の集団を率いていた主人公。
インディアンの襲撃に怯え、乏しくなるばかりの水を求めての苦しい旅。
引き返そうとする者たちを抑えるために一人で水場を求めて歩いていた彼はまったく見知らぬ風景に出くわすのです。
いわゆる過去から未来へタイムトラベルしてしまった男の話。
瀕死の息子が歴史に名を遺した未来を知って勇気を得た男が助けてくれた人々を振り切って皆の元に戻ろうとします。タイムトラベルならではのオチがいいですね。この中では結構気に入っている話です。


「アンテオン遊星への道」(ジェリイ・ソール)
人口増加に悩む人類は新たに発見された遊星への移民団を乗せた宇宙船を送り出したのですが、内部のトラブルで到着までに全滅と言えるほどの死傷者を出してしまう。
新たに出した移民船においてはレッドマスクと呼ばれる男が連続で犯罪を犯すようになったため、人々は協力して彼を捕まえようと躍起になったのでした。
後半でなんとなく想像はついたのですが、やはりうまいこと考えたものだなぁと思ったものです。逆に人類が宇宙に出て長期間の航行をするようになったら、いろいろと考えるものじゃないかとは思いますけどね。


「異星獣を追え!」(クリフォード・D・シマック)
男は思い出した。自分が何をすべきなのかを。
それは手違いによって逃がしてしまった異星からの獣を始末すること。このまま放置しておくと人類を滅ぼす恐れがあるから。
冒頭からの違和感はテレパスを駆使する異星獣に対抗するためにクローン技術で生み出された男だったというわけですね。
任務が完了したら始末されると知った男が取った行動とは?
これはオチがとても秀逸。


「見えざる敵」(ジェリイ・ソール)
二度の探索船が原因不明のまま消息を絶ち、満を持して送り出した三度目の探索隊。
徹底した態勢で砂に埋もれた惑星の調べ始めたのですが、何も見つからないまま、忽然と隊員たちが消えてしまうのでした。
これは冷静な観察者である主人公と義務感に縛られた頭の固い司令官との対決を始めとする内部の人間模様が見せ場の一つであります。その一方で、行方不明になる原因に関してはさほど意外性は感じなかったですね。まだ昆虫みたいな小さい生き物やウイルスの方が説得力あったかもしれない。


「38世紀から来た兵士」(ハーラン・エリスン
あらゆる超兵器や超能力による壮絶な戦いが繰り広げられる未来の戦場からいきなり現代へとタイムスリップしてしまった兵士。
自身に迫る地下鉄にパニックになり、思わず発砲。たちまち地下鉄構内はパニックに陥ってしまうのです。
戦争に従事する兵士だから戦争が好きというわけとは限らない。
彼自身の経験談が未来を変えてしまうという流れが意外性あります。
それも一時的なもので、喉元過ぎれば何とやらという気がするのは悲観的でしょうかね。


「闘技場(アリーナ)」(フレドリック・ブラウン
異星人との全面対決を前に突然高度な存在に異次元空間に拉致された宇宙偵察機乗りの主人公。それは戦争による荒廃を避けるために人類を代表しての決闘を強要されたのでした。ただし真ん中には生きている者には通り抜けられないバリヤーがあるので、互いに石などを投げ合っての応酬が始まったのでした。
考えてみれば相当無茶苦茶な設定ではあるんですが、その場にある物を利用して何とか勝利を掴もうと苦闘する主人公に感情移入してしまう内容でした。
最後は本当にお疲れさんとしか言いようがないですね。