11期・57冊目 『七人の鬼ごっこ』

七人の鬼ごっこ (光文社文庫)

七人の鬼ごっこ (光文社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

秘密の場所が結びつけた子供たち。彼らは成長し、それぞれの生活に追われていた。そんな中、懐かしい人物からの電話が、彼らが封印したはずの記憶を蘇えらせた。ひとり、またひとりいなくなる…。電話のベルは死の鬼ごっこの始まりの合図なのか?メンバーの一人であるホラーミステリ作家が、この不可解な事件に巻き込まれていく―。

勤めていた会社をリストラされて、しかも父親の会社も経営難で多額の負債を抱えている上に母親は痴ほう症という不幸のどん底にいた男。
一番楽しかった小学生時代の秘密の遊び場所の桜の木で首つり自殺を試みたのですが、その前に当時遊んでいた友人5人に日付が変わる寸前、一日一人ずつ電話をかけることにします。
この電話ゲームを月曜から一週間続け、繋がらなかった時点で死のうと。
しかし、こういう時に限って友人たちとは電話が繋がり、互いの近況を話すことができたのですが、思い浮かんだ友人は5人。
そこで残る二日の内、土曜は通称・生命の電話という相談センターにかけたところから物語は始まります。


電話をかけた時点でゲームは続行されており、自殺は延ばされたものの、その重苦しい内容と今にも実行しそうな雰囲気からこれは緊急性が高いと判断した受け手の女性は偶然実家と同じ市内で土地勘があったことから場所も特定して行政に報告。
報告を受けた担当者が翌日の夜に駆け付けたところ、男の姿は無く、靴や持ち物が落ちていた上に崖から落ちた痕跡があったのでした。
しかし男の遺体は発見されないまま。
そして翌週から、電話ゲームで男がかけた友人が一人また一人とおかしな電話を受けた後に死んでいくのです。
その電話には「だぁーれまさんが、こーろしたぁー」という子供の声が入っていたのでした。


封印されていた小学生時代のおぞましき記憶が蘇り、まさに鬼ごっこの如く、姿が見えぬ殺人鬼によって一人ずつ殺されてゆく。忌まわしき童謡の歌声と共に。
人智を超えた不可思議な現象をテーマにしたホラーと論理的な考察を用いて解き明かすミステリという、本来は全く反する要素が融合した著者独特の作品です。
電話をかけられた内の一人、脱サラしてホラーミステリ作家となった主人公が幼い頃の記憶を辿りながら、自殺を試みて消息を絶った男について、殺人事件に発展した動機を探っていく過程で当時遊んだ瓢箪山保有していた垂麻家にまつわる過去の失踪事件と鬼っ子と言われた存在など、地元でタブーとなっていた闇に近づいてゆく流れになっています。
孤立気味だった子供たちが出会い、地元ではタブーとされていた場所を秘密の遊び場としていた。そんな彼らに忍び寄った悪意。
それは化外の存在なのか、それとも?
最後まで怪しい雰囲気がつきまとうのは少しずつ明らかにされていく没落した名家の垂麻家の持つ闇もあるでしょうか。
そして意外な犯人像とその深い事情についてはいかにもミステリらしい。
運命の悪戯によって芽生えた殺意や最後になって明らかにされたタイトルの理由は良かったとは思います。
我欲よりも死んだ子の無念を晴らすためという方が余程納得しやすく、殺意の根底にあった悲痛が読み取れましたし。
不満な点としては、垂麻家の闇がよくわからないままオカルトのような偶然のような感じで終わったことでしょうか。主人公たちがお堂で見たという奇妙な達磨についても結局あまり関係なかったのかなと。