11期・37冊目 『ファイナル・ゲーム』

ファイナル・ゲーム

ファイナル・ゲーム

内容(「BOOK」データベースより)

全てを試す―ゆえに「試全倶楽部」と名付けられた非公認サークルに所属した5人が、大学を卒業して7年、ふたたび集結した。サークルのカリスマであり、大手製薬会社の御曹司である桜正武の号令の下に…。ニート生活を送っていた美輪貫太郎は、行き先も告げられぬまま、ある孤島へと導かれた。そこで待っていたのは、桜の驚愕の命令だった。「5人の中にはスパイが紛れ込んでいる。そいつと一緒にこの中の人間を殺害し、デスマスク写真をメールで送れ―」サークルの最後の遊びは殺人ゲーム。極限状態に置かれた5人の中で、果たして誰がスパイなのか?その矢先、暗闇の中で最初の殺人が起こった…!逆転に次ぐ、逆転!あなたはこの謎を解くことができるか。

大学の授業休講で知り合った6人。
人間観察を目的とする様々な試み−それはかなりタチの悪いドッキリも含めて−を行うべく設立した非公認サークル「試全倶楽部」のメンバーが卒業後7年の時を経て集合。
リーダー(サクちゃん)による倶楽部最後の締め括りとして、放棄された無人島に強制的に連れて来られて、建物の中に閉じ込められてしまう。
翌日の昼に迎えに来るというが、サクちゃんが欲するのは人の死後の顔(デスマスク)。
閉じ込められた5人(玄、達雄、数馬、瑛太、貫太郎)の中に何人かわからない”犬”がいて、サクちゃんの指令を実行しようとしているらしい。
つまり誰だかわからないが、明確に殺意を持つ者がいることで、互いに疑心暗鬼になる仲間たち。
電気は通じず、一本の懐中電灯と内部で見つけた蝋燭以外は暗闇が支配する中で、時間が経つごとに一人ずつ殺されてゆく。
果たして、誰が犬なのか?生きてここを出ることができるのか?


主人公の貫太郎(通称:カン)は就職した商社をわずか半年で辞めてしまい、その後は親の仕送りに頼ってアパートに引きこもり、ひたすらゲームに熱中するニートのような生活を送っていましたが、突然の呼び出しに戸惑いながらも不承不承応じるのです。
卒業したとはいえ、「試全倶楽部」発起人であるサクちゃんには逆らえない上下関係があったためでした。
それを示すような過去のエピソードを挟みつつ、互いを牽制しながら緊迫した時間が過ぎていく中で、その人間性が赤裸々になってゆくわけです。


誰が敵で、誰が信じられるのか、打開しようにも協力さえままならず一人ずつ消えてゆく仲間。
そういう緊迫した状況と、人並みにさえなれないもどかしい主人公の心理がよく描かれていて、どういう落としどころになるのか惹きこまれる部分はあります。
そうは言っても、サバイバルものとしては若者の遊び感覚を脱してなく、いまいち面白みに欠ける部分があったかなと思います。
サクちゃんの常軌を逸した怖さは伝わってきたものの、その背景が不透明なままだったのはちと残念。
それゆえ、30歳を迎える恐怖のために罪のない者を殺してゆく理由が弱いんですよね。
大富豪ならではの歪んだ家庭環境とか想像したのですけど、付き人さんの独白だけでは、彼がいかにして心の中にモンスターを飼うようになったのかがわかりませんでした。


まぁ、最後の達雄の心情と、生きるために前向きに一歩を踏み出した主人公には救いが見られて良かったかなと思いましたね。