11期・36冊目 『ルーズヴェルト・ゲーム』

内容(「BOOK」データベースより)

「一番おもしろい試合は、8対7だ」野球を愛したルーズヴェルト大統領は、そう語った。監督に見捨てられ、主力選手をも失ったかつての名門、青島製作所野球部。創部以来の危機に、野球部長の三上が招いたのは、挫折を経験したひとりの男だった。一方、社長に抜擢されて間もない細川は、折しもの不況に立ち向かうため、聖域なきリストラを命じる。廃部か存続か。繁栄か衰退か。人生を賭した男達の戦いがここに始まる。

青島製作所は技術力が売りの中堅電子部品メーカーですが、昨今の金融不況により取引先からの受注は減る一方で業績不振にあえいでいました。
赤字が見込まれる以上は銀行からの融資を得るためにリストラを進めなければならない。
そんな青島製作所には創業者の肝いりで設立された野球部があり、かつては社会人野球の名門として活躍していたものの、最近は負けがこんでいた状態。
それがシーズンを前にしていきなり監督が辞任。しかもエースと四番を引き抜いて、よりによってライバルとして水を開けられた相手であるミツワ電器に移籍してしまったのです。


急ぎ招聘した新監督は今まで高校野球の経験しかない実力未知数の監督。
彼は過去のデータを見直し、昨季まで出番が少なかった控えの若手選手を抜擢します。
ようやく始まった野球部の再建ですが、青島製作所を取り巻く状況は悪化してゆく中で、細川社長の苦悩は深まるばかり。
競争相手にして規模も上回るミツワ電器による価格引き下げ攻勢に新たなリストラ計画が進められ、野球部の存在自体も危ぶまれていたのでした。


大ヒット作を連発している池井戸潤氏ですが、私はちょっと前に読んだ『BT'63』が初。
そして今回ようやくドラマ化もされた本作を読むことになりました。
個人的には太平洋戦争時のアメリカ大統領として知っているフランクリン・D・ルーズヴェルトが大の野球好きで、「一番おもしろい試合は、8対7だ」という言葉を残していたとは初めて知りました。
互いに打ち合って点を取って取られてを繰り返すという、ハラハラした状況に手に汗握るゲームに醍醐味があるという意味らしいです。


本作はまさに業績不振で赤字が続き、社員の大幅解雇と契約社員の契約打ち切りによるリストラも有効な手立てとはならず、しまいにはミツワ電器主導による経営統合にまで追い込まれそうになる青島製作所の苦境とそれに伴い存亡の危機にある野球部。
どちらも後が無い状況に追い込まれる様が描かれていて、前半は重苦しい内容が続きます。
点の取り合いというよりも、8回裏で7対0という敗色濃厚な試合って感じですよね。
不況によって名の知れた企業スポーツの部が廃止されたというニュースはよく聞きます。
やはり醍醐味は逆境のおいて一筋の光明が差しこみ、みんなで一丸となって立ち向かってゆくところでしょうか。
その過程において、内部で対立していた相手との和解(理解)があったり。
手段を選ばず貶めようとするライバルを悪に見立てた正統な勧善懲悪とも言えますが、そこには読む者の胸を熱くするドラマがあって、やはり名が知られているだけの価値はあるかなと思いました。
会社に所属して好きな野球を仕事として続けているも、多くは契約社員として不安定な部分もあり、景気の波に左右される社会人野球選手の立場が描かれるのが新鮮でもありました。
最後はあえて青島製作所としての野球部廃止の流れを変えずに救い主を登場させたのも良かったですね。