11期・33冊目 『破壊の御子』

破壊の御子

破壊の御子

内容(「BOOK」データベースより)

突如として異世界に召喚された高校生の木崎蒼馬。人間が“亜人”を虐げる世界で、蒼馬は人間に捕らえられてしまう。しかし、ともに捕らえられた獣人族ゾアンの女の子・シェムルを助けようとしたことで信頼され、シェムルとともにゾアンに助け出される。人間たちに攻め込まれ、種族の存亡の危機に陥っているゾアンを目の当たりにし、蒼馬は自分の世界の知識を駆使して人間国家に反逆を開始する…。これは後に世界の破壊者として恐れられる「破壊の御子ソーマ・キサキ」となる少年の物語。

そこは創造神亡きあとに生まれた6柱の神がそれぞれの種族を創った世界。
創造神の死に関与し、6柱神よりも古いとされる死と破壊の女神アウラの御子として、ある老人の秘術により異世界に召喚された主人公・木崎蒼馬。
ところが召喚者は邪教信奉の罪により召喚直後に死亡。
その世界で忌まわしい存在である女神アウラの印が認められたことから、厄介者扱いで投獄されてしまいます。
最初から言葉が通じないどころか、召喚されてから徐々に衰弱してゆく主人公。
たまたま人間に捕まっていた獣人族ゾアンの御子シェムルに食べ物を分け与えていた縁で一緒に助け出され、ゾアンの里に連れていかれて、巫女であるお婆様の尽力によりなんとか命を繋ぎとめることができたのでした。
しかし、かつて草原の王者と呼ばれたゾアンも人間の組織だった力に負けて住処を追い立てられ、シェムルの属する牙の部族も今では山の方に逃れて暮らしている現状。
そして、近くの砦には新たな人間の軍隊が入り、滅亡の瀬戸際にありました。
あまりにも悲惨な現状にソーマは助けてもらったシェムルのためにも破壊の御子であることを明かし、ゾアンが勝つために知恵を授けようとするのでした。


巷に溢れるネット小説の異世界召喚ものは主人公チートで俺TUEEEEE*1かつ展開がご都合主義になっている作品が多いそうですが、それとは一線を画しているのが本作。
彼には獣人への偏見はなく、助けてもらった恩もあってその迫害される現状を憂うのですが、それまでがごく普通の高校生で、戦う術もなく、せいぜいアニメや漫画で得た知識のみ。
ただ、「人に恥じない人生」という祖父の教えが根本にあり、そこが御子に選ばれた際に力よりも誇りを選んだシェムルに共通する点だとふと思ったり(シェムルが獣神の御子に選ばれた経緯については書籍版に追加された外伝にある)。


1巻のストーリーは序章というべくゾアンとの出会いと最初の戦いのみで展開としてはやや遅めですが、その世界観説明や主人公が異世界に戸惑うさま、そして自身が行った策によって多くの人が死んだことによる苦しみと克服など、だいぶ丁寧な記述がされており、ネット小説原作の中でも充分読み応えあります。*2
何よりも、途中で挟まれる歴史書風の破壊の御子の後世の評価がどちらかと言うと悪い意味で記されているのが興味をそそられますね。
将来的に主人公は変わってしまうのか、それとも人間側の都合でそう評価されてしまっただけなのか。


一つだけ残念なのは、挿絵でしょうかね。表紙はまぁまだいいんじゃないかと思います。
内容的にラノベにありがちな萌え絵でないのは賢明な選択ですし、人間よりも獣に近い獣人の容姿というイメージには近いのかもしれない。
ただ、シェムルや族長ガラムが子供っぽすぎるというか、戦士としての強さや迫力を感じられないんですよねぇ。もう少し力強いタッチの方が合っていたかもしれないですね。

*1:元々主人公が武術や知識に優れているケースもあるが、転生時に反則的なスキルが付与されていることが多い

*2:個人的に1年近く前から読んでいた