11期・20冊目 『黒い春』

黒い春 (幻冬舎文庫)

黒い春 (幻冬舎文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

覚醒剤中毒死を疑われ監察医務院に運び込まれた遺体から未知の黒色胞子が発見された。そして翌年の五月、口から黒い粉を撤き散らしながら絶命する黒手病の犠牲者が全国各地で続出。対応策を発見できない厚生省だったが、一人の歴史研究家に辿り着き解決の端緒を掴む。そして人類の命運を賭けた闘いが始まった―。傑作エンタテインメント巨編。

始めは覚醒剤中毒死の少女の遺体の肺から見つかった未知の黒色胞子。
人工培養もできず、正体がわからぬままであったが、ちょうど一年後に激しい咳と共に口から黒い粉をまき散らして絶命するというケースが全国的に発生。
黒手病と名付けられて一時的にメディアを騒がします。
犠牲者は一か月で21名まで数えたところで収束しますが、まったく原因も対応策もわからないまま。そこで現場で関わったメンバー(国立感染症センターの三和島、東京都監察医務院の監察医・飯守、東京都衛生研究所の岩倉)による対策チームがその対応に取り掛かります。
そして翌年の5月、いきなり各地で急増する黒手病患者。たちまち死者は100人を超え、世間はその脅威に怯えます。
黒手病発症者の繋がりが滋賀県にあり、更に複数の犠牲者の行動から琵琶湖に浮かぶ島に鍵があるとわかって三和島は自らそこに赴くのですが・・・。


ここで描かれる黒手病とは11月頃に感染、5月になると体内の真菌が活発化するために出現、その活動期間として約一か月で収束するということ、人から人への感染はないということで、最大犠牲者が数百人規模であるためにパンデミックというほどではありません。
元がニオイタデという外来種の植物がかかるサビ病の胞子が元であるという点までは突き止めるのですが、その治療法は確立せず、発症者は100%死亡するという恐ろしい病気であります。


内容としては、社会的な現象よりもその究明に関わる関係者およびその家族の繋がりに重きを置いたヒューマンドラマとして仕上がっていますね。
それだけに待望の子供が生まれて幸せを感じていた監察医・飯守の妻が感染してしまった後半からがストーリーに加速度的に惹きこまれていきました。
それに加えて約1400年前の奈良時代にこの病気に直面したのかもしれない歴史上の人物・小野妹子を巡る歴史ミステリーが作品としての深みを与えています。
個人的にもこういう歴史の謎を変な陰謀論抜きに当時の事情に即して推測するというのが好きなもので。
パンドラの箱を開けてしまった感のあった冒頭を読んで、ありきたりのホラーになるかと思ったけど、まったくそんな心配は要らなかったですね(笑)


はっきりとした結末ではない為に人によって好みが分かれるかもしれませんが、あえてこういう幕の引き方もありかなと思います。