11期・19冊目 『ハサミ男』

ハサミ男 (講談社文庫)

ハサミ男 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。三番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」は調査をはじめる。精緻にして大胆な長編ミステリの傑作。

少女を絞殺した後に首に鋭利なはハサミで突き刺すという通称ハサミ男の事件が二件続いた後、しばらく鳴りを潜めていた犯人が次に狙いを定めたのは都内の高校に通う品行方正な美少女・樽宮由紀子。
犯人は出版社のアルバイトをしながら仕事の合間に由紀子の周辺に出没してその行動パターンを丹念に探ります。
そしてある夜、学校帰りの由紀子を襲うべく、帰り道で待ち受けていたのですが、夜遅くなっても一向に来ない。
仕方なく道を逆に辿っていき、ある公園に着いたところ、すでにハサミ男の手口で殺されていた由紀子を見つけたのでした。
いったい自分以外の誰がこんなことをしたのか?


珍しく過去2件の殺人事件を起こした犯人が主人公になっています。
この主人公は何度も自殺未遂を起こしては「医師」の世話になっているのですが、どうも読んでいるうちに「医師」の存在は実在ではなく、架空あるいは主人公の別人格のように思えます。
世間ではまたしてもハサミ男の犯行かと騒がれるのですが、樽宮由紀子を殺したのが自分ではない以上、真犯人を見つけるべく主人公も調べ始めるのでした。


これ、具体的に内容について言及しようとすると、ネタバレになってしまうので難しいですね。
要はミスリードを狙ったトリック系ミステリというわけですが、普通にミステリとわかっていても大部分の人は騙されてしまうかもしれない。
各登場人物の思い込みによるミスリードが巧みでした。
それに加えて事件や被害者を一面的な虚像に仕立て上げようとするマスコミへの風刺が効いていた点はニヤリとさせられます。


ただなんというか、種が明かされても見事にやられた!という印象を受けなかったのですね。
そのあたりを振り返ってみると、自殺未遂を繰り返したり、「医師」とのくどい会話といった、変なキャラクター付けが関係して感情移入できなかったのもあるのかもしれません。
結局、ハサミ男の内面が理解できないまま終わったしまった感がありました。