100期・66冊目 『ガレキノシタ』

内容(「BOOK」データベースより)
突如崩壊した高校校舎。数多の命が一瞬で奪われた一方、瓦礫の下で生き残った生徒たちがいた。すれ違っていた双子の兄弟、いじめっこといじめられっこ、恋人の無事を祈る少女、水と油の生徒と教師…生と死の狭間でそれぞれの問題に直面したとき、彼らの脳裡にはなぜか一人の少年の姿が浮んだ―。極限状態に置かれた命が輝く、傑作青春小説!

ある日突然、高校の校舎が崩壊。*1
偶然瓦礫の隙間で生き残った一人(あるいは二人)ずつにスポットを当てて、非日常の中での彼らの心境の変化を描いていく連作集になります。
・母親の死をきっかけにすれ違うようになった双子の兄弟。
・父親の不倫をきっかけに親友と離れ離れになり、高校で偶然再会するも会話のきっかけがつかめない少女。
保健室登校の問題児と義務感だけで面会に来ていた担任の教師。
・トイレの外と中で明暗が分かれたいじめっこといじめられっこ。
・恋人の安否を気遣うサッカー部のマネージャー。
・仲間内の度胸試しのためこっそり地下倉庫に忍び込んで遭難した小学生と居合わせた高校生。


実際のところ、読む前はそんなに期待はしていなかったのですが、身動きの取れない瓦礫の隙間という限られた中でそれぞれの登場人物たちが生死の狭間で織りなす人間模様はなかなか惹きこまれるものがあって、どの章も良かったです。
校舎の崩壊に巻き込まれた不運と奇跡的に瓦礫の隙間にあって助かった幸運。
わずかな空間の中で思うように身動きできず、季節はちょうど初夏でじっとしていても汗ばむ中で果たして助けは来るのかという不安と生への執着。
実際にその立場になってみないとわからないですが、極限の中での心理描写は存分に伝わってくるものがありました。
そして各章を通じて三年生のある生徒の人物像が浮かび上がり、最後に彼が登場する構成も良かったですね。
ただ、どうせだったらエピローグにはみんな勢ぞろいして、その後が書かれても良かったんじゃないかなと思いました。


ところで表紙は最初登場人物の中の誰かかと思ったのですが、制服が違うようです。
客寄せ(?)の中身にそぐわないイラストにするより、思い切って積み重なった瓦礫とかにした方が良かったかもしれません。*2

*1:地震のような自然災害ではなく、手抜き工事が原因による人災であることが明かされる

*2:単行本の表紙は瓦礫の狭間から見上げる青空であり、そっちの方が個人的にはいい気がした