10期・30冊目 『小袖日記』

小袖日記 (文春文庫)

小袖日記 (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
上司との不倫に破れて自暴自棄になっていたあたしは、平安時代にタイムスリップ!女官・小袖として『源氏物語』を執筆中の香子さまの片腕として働き、平安の世を取材して歩くと、物語で描かれていた女たちや事件には意外な真相が隠されていた―。ミステリーをはじめ幅広いジャンルで活躍する著者の新境地。

タイムスリップものとして選ばれる年代というのは偏りがあって、日本史上で言えば戦国時代や幕末、第2次世界大戦など動乱の時代が多いもの。
そういう意味では珍しい部類に入るのが平安時代です。単純に時代としての親しみやすさとか、時を遡れば遡るほどギャップが大きくて大変だろうというのもあるでしょうが。
ここで本作の主人公がタイムスリップというか時空を超えた入れ替わりしたのが「源氏物語」を執筆した香子の身近に使える小袖という少女だったという。
もともと執筆の手伝いとして、小説のネタ探しに歩き回っていたという小袖。
かくして世に知る源氏物語に登場するモデルとされた男女に直接会うことになる主人公。
そうして物語に書かれた事件の裏に隠れた意外な真相に触れることになってゆくのでした。


遠くなればなるほど時代の常識は違うわけで。
主人公が雷に打たれて目を覚ました時(タイムスリップした時)に彼女を見守る「おかめの集団」*1に思わず笑ってしまいました。
それに床に垂れるほどの長い髪。動くのもままならぬ服装。当時の都の女性はたいそう不便そうです。
雷に打たれた後遺症(?)という言い訳や主人の香子の理解もあって、小袖の記憶と現代人の思考がごっちゃになったままでもなんとか暮らしていけたのが幸いでしょうか。
当時は日常的に風呂に入る習慣が定着していないため体臭が酷く*2、外では郊外に死者を野ざらし(鳥葬)にしたりと色々現代とはあまりに感覚が違う描写などが興味深い。
一方で恋愛については現代に通じる部分があったようで、つい主人公は小説のモデルとなった女性たちに親身になってゆく。
その分、身勝手な男性に対する批判が痛烈というかくどい部分がありました。
そもそも一夫多妻が当たり前で家を保つことが至上である上位貴族は極端な例じゃないかと思ったりしましたが、現代と比べて平均寿命が短いゆえの考え方の違いがあるのではと主人公をして考察させているところが歴史タイムスリップものならではですな。
まぁおそらく「源氏物語」を読んだことがある人の方が、該当する巻ごとのエピソードを堪能できたかもしれません。
でも教科書程度の知識しかない私でもそれなりに楽しめましたね。

*1:当時の美人の象徴

*2:代わりに香を焚くのはフランスにおける香水発達に通じるか