10期・29冊目 『ホット・ゾーン――「エボラ出血熱」制圧に命を懸けた人々』

ホット・ゾーン

ホット・ゾーン

内容紹介
累計64万部突破!
エボラ出血熱」をめぐる、最も詳しく、最も有名なノンフィクションを緊急復刊!
脅威の感染メカニズムから、ウィルス制圧に命をかけた医療関係者たちの戦いまで―?
再燃する「エボラ出血熱」のすべてを描ききった、手に汗にぎるノンフィクションが蘇ります。
「解説書としての分かりやすさ」と、「小説のように一気に読める面白さ」を兼ね備え、日本をはじめとする全世界で大ベストセラーになった一冊です。

エボラ出血熱
それはHIVなどと同じでアフリカの熱帯雨林より出現した急性ウイルス性感染症で、効果的な薬品は無く*1、感染すると高い死亡率(50から90%)を持つ恐ろしい病気です。
エボラ出血熱について 厚生労働省
アフリカ中央部や西部において何度も突発的に発生と流行を繰り返しており(最近では2014年8〜9月)、そのたびに多数の死者を出していること、そして最終的には全身から出血して死亡するという症状から名前とその脅威だけは知っていました。


本書では1976年に初めて発症した人物の行動からどのように広まっていったか、医療関係者への取材も含めてその軌跡を辿り、アメリカ陸軍感染症医学研究所 (USAMRIID) を中心とする各機関においてエボラ出血熱が発見・解析されていく様子を描いています。
医学的内容にありがちな専門用語頻出の固い記述だけではなく、素人でもわかりやすい小説風の記述なので、登場人物の熱意や苦悩が実によく伝わってきて読みやすいです。
約20年前に刊行されたので最新の医学情報は反映されていないという点は除いても、エボラ出血熱についての理解は深まりましたね。
それにしてもエボラ出血熱に感染した人が症状が悪化して死に至るまでの描写がすさまじい。
最初こそ頭痛・発熱などインフルエンザに近いのですが、進行するにつれ身体中の細胞が破壊されて脳から内臓などの機能障害を起こす。そして身体じゅうの穴という穴から出血して死に至る。検死にあたって内臓を切り開くとドロドロに溶けていたというから想像するだけでもおぞましい。


そして検体(感染したサルに遺体など)を扱う際はバイオセーフティーレベルは最高度の4という厳重に滅菌・消毒管理された中で行うのですが、ちょっとしたミスが死に繋がるために非常に緊迫感ある場面の連続で読み応えあります。
後半はワシントン郊外のレストンという場所で輸入されたカニクイザルを管理していたモンキーハウスで起こった事例を追っています。
次々と謎の出血熱で死んでゆくサルたち。
これはただごとではないと気づいた管理人が陸軍感染症医学研究所にサンプルを送ったところ、最も危険なエボラ・ザイールのウイルスと酷似していたことから急きょ対策を行うことになったのですが、まずいことにマスコミにも感知されてしまう。
結果的には秘密裡に集まったプロジェクトチームが悪戦苦闘の末にモンキーハウスのサルの薬殺と消毒が完了したこと、新たに見つかったエボラ・レストンは人には感染しないことで大過なく済んだのですが、一歩間違えればアメリカの都市部へのパンデミックやパニック騒ぎが起こっていた危険性を思い知らされます。


確定はしていませんがエボラは空気感染はせず、人の体液および注射針など医療器具の使い回しによる感染が主*2だとされています。
そういう意味ではインフルエンザよりは感染力に劣るものの、その致死性の強さと対処方法の難しさで今後も人類にとっての脅威であり続けるのでしょう。
今までアフリカの熱帯雨林の中で限られた動物たちの間でしか存在しなかったウイルスがサルから人にうつり、高度に張り巡らされたインフラによって簡単に国境を越えていく。
そう考えると対岸の火事とは言えないのだろうと思わされました。

*1:エボラ出血熱に感染した後に回復した元患者には抗体があり、元患者の血液や血清の投与が唯一の有効な治療法とされている

*2:宿主が死んでもウイルスは生きているため、遺体の扱いによっては感染しうる