10期・14冊目 『Y』

Y (ハルキ文庫)

Y (ハルキ文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
ある晩かかってきた一本の奇妙な電話。北川健と名乗るその男は、かつて私=秋間文夫の親友だったというが、私には全く覚えがなかった。それから数日後、その男の秘書を通じて、貸金庫に預けられていた一枚のフロッピー・ディスクと、五百万の現金を受け取ることになった私はフロッピーに入っていた、その奇妙な物語を読むうちにやがて、彼の「人生」に引き込まれていってしまう。この物語は本当の話なのだろうか?時間を超えた究極のラブ・ストーリー

映画の視覚効果におけるアイリスイン・アイリスアウトが起こると時間を逆行する。
数秒単位で始まった次第に長くなり、そして一時も忘れることができなかった18年前の電車事故の直前に戻り、ある女性を事故から救う。
幸せな家庭を捨ててまで過去に戻ることを願い、18年間を二度生きた男の物語です。
それも元の人生で親友であった主人公(二度目の人生では卒業後の再会がなかったために縁もゆかりも無い)にその記録を読ませるという内容になっています。
その記録によると、北川健は望んだ通りに時を遡り、女性(水書弓子)を事故に遭うはずの電車から降ろすことに成功。他の人たちも事故から救おうと行動するもうまくいかずにそのまま自分も含めて事故に遭ってしまう。そして北川と秋間、元の人生で二人に関わる女性たちの人生も大きく変わってしまったのでした。
主人公は半信半疑のまま読み始めるのですが、次第にその内容に惹きこまれていき、彼(北川健)に身に起こったことを信じ始めている自分に気づくのです。


過去に戻って人生をやり直す。それは多くの人が思い願うことかもしれません。
小説でもよく取り上げられていて、代表的なのがケン・グリムウッドの『リプレイ』ですね(当然作品内でも言及されている)。
タイトルの「Y」はある時点を境にした分かれ道のことを指しているのですが、確信犯的タイムトラベルとしては言いえて妙ですね。
しかしそれが必ずしも良い結果ばかりをもたらすものではないわけで。
ただそれは読者が客観的に感じるのとそれぞれ一つの人生を生きている人物の主観とでは違うのかもしれませんが。
『リプレイ』とはまた違った切り口で描かれるもう人生のやり直し。話の構成としては巧みなのは確かですが、どうも平凡すぎるのか登場人物にあまり魅力を感じないせいなのか『リプレイ』のような感銘を受けることはありませんでした。まぁ現実としてはこんなものなのかもしれません。


ちょっと気になったのは、秋間文夫が北川健は本当に高校の同級生だったか調べるために卒業アルバムを借りる時、相手の女性が卒業してから百年経っているとか言っていたこと。
実は彼ら自身も時間遡行者であったという伏線なのかと期待していたのですが、単なる冗談だったのかなぁ?*1

*1:お釣り100円を100万円と言うような類のおばちゃんジョーク?