10期・12冊目 『悪党の戦旗』

悪党の戦旗―嘉吉の乱始末

悪党の戦旗―嘉吉の乱始末

内容(「BOOK」データベースより)
嘉吉の乱によって敗亡してより十五年―。南朝の帝を討ち、神璽を奪還することで主家再興を図ろうと、赤松遺臣たちは吉野へ潜入する…。渾身の筆で描く本格歴史長篇小説。

将軍としての権力強化を図るために有力大名への跡継ぎ問題に口を出すなどその力を削ぐことに努めた足利幕府六代将軍・義教。
独裁者の常として自身に刃向う者に過敏になり、何かあれば身分問わずに容赦なく切り捨てるなど恐怖政治をしくようになりました。
そうした状況で次は自分の番かと恐怖した三カ国(播磨・備前・美作)の守護大名・赤松満佑は、やられる前にやるとばかりに祝いの席に招いた将軍を暗殺してしまったのです。
この暗殺事件とその後の幕府軍による赤松氏追討までは嘉吉の乱として有名ですね。
個人的には小学生の時にまんが日本史で読んだのが最初に知ったきっかけだった気がします。
wikipedia:嘉吉の乱
教科書的には数行で済んでしまう出来事ですが、守護大名としての赤松氏としてはいったん滅亡し、その後のお家再興に至るまで長く尾を引いていたわけです。
播磨の国人小寺藤兵衛*1を中心とした若き赤松氏家臣たちを中心とした当事者視点で描かれたのが本作になります。


当時を揺るがした大事件であったのですが、追い詰められたと感じた赤松氏が発作的に将軍を弑し、事が成ったら潔く屋敷で腹を切ろうと思っていたところ、主を失った幕府はすぐに動けず、赤松一党は国に戻って戦の準備をしたという流れになっています。
そう考えるとあまり計画的ではなくて、根回したわけでも無いし、ぐだぐだしている内に朝敵扱い、そして幕府の大軍を前に敗北。
作品内でも満佑は短気で後先考えずに行動しやすい性格と書かれていますが、大事を起こした割にはあまり考えてなかったのだなぁという印象を受けます。
合戦の結果、当主満佑は切腹しましたが、その弟・子らは再起を期してちりぢりになりました。
主殺しの汚名を着せられた赤松宗家には周囲も情け容赦なく、赤松傍流の一族や婚戚の大名を頼るも逆に殺されてしまう。最後まで従っていた家臣たちもそれぞれ雌伏の時を過ごすことになります。
そこからが赤松遺臣たちの長い長い苦難の日々が続くわけで、生き残った赤松一門の主君とともに各地で転戦したり、いったんは帰農したり、主人公の小寺藤兵衛のように大和国にて有力寺社のもとで下人を務めたり。主家を失った浪人としての苦労が忍ばれる描写が続きます。
結果的に十数年の歳月が流れ、このまま座していてはお家再興はならない、ならば乾坤一擲の勝負として南朝に奪われた神璽を奪い返すという一大計画に遺臣たちは賭けることになってゆくのです。


発端も経過も全然違いますが、遺臣たちがお家再興のために奔走したり事を起こすという点では忠臣蔵を思い起こしました。
でも物語としての派手さはあまり無いし、経過としては地味ではあります。
ただ粘り強い遺臣たちの想いはよく伝わってきます。浪人となっても代々仕えてきた主家との縁は絶ち難いものなのだと。
その一方で終盤、藤兵衛が南朝遺臣と自分たちを比べてみて、手段が生き甲斐になっている点では同じだと思う部分があり、そこに武士としての執念と哀しみのようなものを感じました。

*1:黒田官兵衛の最初の主筋にして婿入りしたのが小寺氏。その祖先という設定なのかも