10期・10,11冊目 『タイムライン(上・下)』

タイムライン〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

タイムライン〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

タイムライン〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

タイムライン〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

内容(「BOOK」データベースより)
フランスにある14世紀の遺跡で大学の歴史調査チームが発掘したのは、なんと現代製の眼鏡のレンズと助けを求めるメモだった。その直後、調査チームはスポンサーでもある巨大ハイテク企業ITCによって緊急に呼び出された。遺跡発掘の責任者であるジョンストン教授の救出に協力してほしいというのだ。リーダーのマレクをはじめ、チームのメンバーたちは耳を疑った。その行き先というのが、14世紀のフランスだったからだ。

ハイテク企業ITCが秘密裏に開発したのが量子的コンピュータによる多次元転送装置。
それによって事実上のタイムトラベルができるようになったというのです。
将来的にはこの装置を利用して、現在の考古学的なアプローチを越えた本物による歴史的アミューズメント施設を目論んでいるらしい。
とはいえ、まだ絶対安全とは言えない不完全なシステムであり、社外にはひた隠しにされているが、転送エラーと呼ばれる障害が人体に発生してそれは命にも関わるのだという。
その一環として大学の歴史調査チームがフランスにある14世紀の遺跡を発掘していました。*1
ある日、責任者であるジョンストン教授がプロジェクトの方針について会社に直談判しに赴いた後、残されたメンバーは新たに発見された遺跡から現代製の眼鏡のレンズと助けを求める教授筆跡の羊皮紙を見つけてしまうのです。
混乱するメンバーのところへ会社の重役から呼出があり、なんと転送装置によって14世紀のフランスに行ったまま戻ってこない教授を救出してほしいと依頼されるのですが…。


中世史に惚れ込み、当時の言語や風俗の研究はもとより騎士としての乗馬や槍の訓練をしていた助教授のマレク。
考古学専攻でちょうど舞台となる地域の建物の復元に携わっていた大学院生クリス。
歴史建築学が専門で修道院や城に詳しいケイト。
(もう一人、物理学専門のスターンは装置の安全性に不安を持って辞退するが、終盤に重要な役割を果たす)
その3人の救出メンバーに加えて護衛役の元軍人に、何度も転送を経験している社員が案内人としていざ中世への転送を果たすのですが、時代の雰囲気に慣れる前にいきなり騎士団に襲われて二人が殺害されてしまうという波乱の幕開け。
追われるクリスも出会った少年に言われるまま逃亡したことでマレクらとははぐれてしまい、心の準備ができぬまま中世世界へと放りこまれてしまうのです。


クライトンは『アンドロメダ病原体』以来です。
序盤の技術的背景こそ『アンドロメダ〜』と同様に複雑ではありましたが、中世が舞台となると一転してまるで目の前で展開されているような城内の描写、次から次へと迫る危機一髪、やがて迫る時間との戦いなど物語に一気に惹き込まれていきます。
また最初は戸惑っていた現代の登場人物たちも次第に時代に順応して生き生きと活躍。
息もつけず展開の連続で、つい先行きが気になってしまいましたね。
中世オタクとも言えるマレクは水を得た魚のように、とは言い過ぎかもしれませんが、中世の騎士たちを相手に一歩も引かず大活躍。
ひ弱だったクリスは修羅場を経験する内にすっかり逞しくなり、何かと逃げ回る場面の多いケイトは建築の知識と身軽さを活かしての活躍。
控え目ながら登場人物たちのロマンスもあるのも一つのスパイスになっていますね。*2
もちろん、一癖も二癖もあるこの時代の人物たちによっても大いにストーリーが盛り上がっています。


彼ら3人はタイムトラベラーとしての歴史知識は充分でしたが、戦争が継続されていた時代だけあって、状況的には厳しいものがありました。
そういう意味ではタイムトラベルものとして、わりかしリアルに描かれていますね。
作品上、現代の物を持ち込めない制約*3もあって、体力的な面からも現代人が生き抜くのは大変なのがわかります。
まぁストーリー的にも危機の連続過ぎて、もし自分だったら命がいくつあっても足りないかもなぁというのが正直なところですが(笑)
最後までスリリングなストーリーとなっており、充分楽しましたね。

*1:当然、本人たちはスポンサーである会社の思惑など知らずに純粋に学術調査が目的

*2:映画版ではメインになっているらしいが

*3:翻訳・通信機能付きイヤピースと超小型の緊急キットを除く