10期・4,5冊目 『密謀(上・下)』

密謀(上) (新潮文庫)

密謀(上) (新潮文庫)

密謀(下) (新潮文庫)

密謀(下) (新潮文庫)

織田から豊臣へと急旋回し、やがて天下分け目の“関ケ原”へと向かう戦国末期は、いたるところに策略と陥穽が口をあけて待ちかまえていた。謙信以来の精強を誇る東国の雄・上杉で主君景勝を支えるのは、二十代の若さだが、知謀の将として聞える直江兼続。本書は、兼続の慧眼と彼が擁する草(忍びの者)の暗躍を軸に、戦国の世の盛衰を活写した、興趣尽きない歴史・時代小説である。
藤沢周平『密謀〔上〕』|新潮社

直江兼続と言えば2009年の大河ドラマ天地人』の主人公になったことで全国区の知名度となりましたね。
個人的には別にドラマを見ていたわけでもないし特別注目していた人物(どちらかというと好印象だったが)でもなく、上杉は天下分け目の関ヶ原の戦いにてきっかけを作りながら地勢上、影響を与えることができなかったという脇役的な存在でした。
たまたま古本で見つけて、謙信亡き後の上杉を継いだ景勝・兼続の二人の物語を読んでみたいと思った次第です。


謙信亡き後の後継者争いである御館の乱を制して越後上杉家を継いだ景勝とそれを補佐する兼続ですが、ちょうど織田信長が絶頂期を迎えつつある時期で、武田滅亡後に各方面から攻め寄せようとする織田勢に苦慮していました。
そんな中で突然起こった本能寺の変
窮地を脱した上杉氏ですが、その後の形勢を見るに中国大返し後に山崎の戦い明智光秀を討った秀吉が天下人への道を急速に駆け上っていました。
秀吉の上杉に対する態度こそ対等の同盟者として遇されていましたが、実質天下人に対して膝を屈することになるわけで、主従は鬱屈した思いはあるものの、それに従うことになります。
そしてもう一人果たして秀吉に対して和戦の去就を伺われているのが徳川家康。兼続としてはその動静に注目せざるを得なかったのです。


歴史的経緯としてはよく知っている時代なので、新鮮さはさほどありません。
でもそこは適度に結果のみ書かれるに留まり、兼続を中心としていたのが良かった気がします。
心が通じ合っていると思えるほど以心伝心の様子が伺える主君・景勝との密議を通して彼らが謀略渦巻く世の中でいかに上杉の義を通していく。
無口でいかにも越後人である景勝は一見掴みどころのない印象ですが、カリスマ性があり越後の当主としてふさわしい人物であったことがわかります。
兼続が御館の乱景虎ではなく景勝擁立に尽力した理由には納得。
また、兼続配下の忍びたちの動向によって水面下の戦いが描かれていたのが面白かったです。
その点で影の主人公とも言えるのが、冒頭で上杉忍びに拾われた後に剣術の武者修行に励むようになった静四郎ですね。
決して表に出ることの無い忍びたちが彼の存在が通すことによって実に明るく、そして人間臭い印象を受けたような気がします。
関ヶ原の戦後、結局上杉家は隠忍自重して家康に降伏し、120万石が30万石に削られて大変苦労して江戸時代を過ごして幕末を迎えるのですが、もし戦乱が長引いていたら兼続が抱いたという奥州支配の展開が見られたのかなぁと妄想が広がります。まぁ史実で苦戦した最上に加えて伊達も黙っていないのでどのような行く末になるかは読めませんが。