消えた景色

自宅から駅までの通り道はほとんど住宅地だが、ある一角だけ雑木林として残っている土地があった。
通りに面する部分は竹の柵で仕切られているが、三階建ての建物をゆうに超えるほどの高さの樹木が生い茂り、入ったことはさすがに無かったが中は昼でも薄暗いような鬱蒼とした林だった。
夜に通ると風に揺れる木々の影が何か化け物のように見える・・・そんな子供の頃を思い出させるところだった。
当然、夏にはクワガタやカブトムシがたくさんいるに違いない(今時の子供が採りに行っているかわからないが)。虫だけでなくいろいろ小動物が生息していそうだ。
でも外から見た感じ、木々の密度が高いから入っていくのも大変そうじゃね?でも自分が子供だったら探検心がくすぐられるよね~。
なんて想像をかきたてられる場所だった。

うちの方はちょうど市街地の外れの方なので畑や田んぼは珍しくなかったが、まとまった雑木林はあまり見られない。それは平野部なので山が近くに無いせいもあるだろう。また市街地の狭間に残っていたのが珍しかったというのもある。
ちょうと隣が寺だったので昔からその所有地として残されていたのかと推測していた。
付近には塀でぐるっと囲まれた旧家っぽいお屋敷も数軒あるが、そういった元からの家を除けば、昭和の途中までこんな林は珍しくもない鄙びた景色だったのだろうね。

それが去年秋頃に突然伐採が始まり、みるみる間に木々は刈られてただの野原になっていった。
さすがに数本の巨木は枝が切られた状態でしばらく残っていたが、今じゃすっかり更地になっている。
思ったより広さは無くて、分譲地にしたとしてもせいぜい家2~3軒分って感じかな。

今の道を使うようになって約8年。
引っ越してきた頃は新鮮だった街並みも年月経てばすっかり馴染んでくる。
家を取り壊したり新たに家を建てたり店が替わるというのはたまに見られる風景で別に珍しくはないけど、あれだけの雑木林があること自体はここらへんでは貴重で、それが無くなってしまったのは第三者ながら寂しい気がした。