9期・57冊目 『プラチナデータ』

プラチナデータ (幻冬舎文庫)

プラチナデータ (幻冬舎文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
犯罪防止を目的としたDNA法案が国会で可決し、検挙率が飛躍的に上がるなか、科学捜査を嘲笑うかのような連続殺人事件が発生した。警察の捜査は難航を極め、警察庁特殊解析研究所の神楽龍平が操るDNA捜査システムの検索結果は「NOT FOUND」。犯人はこの世に存在しないのか?時を同じくして、システムの開発者までが殺害される。現場に残された毛髪から解析された結果は…「RYUHEI KAGURA 適合率99.99%」。犯人は、神楽自身であることを示していた―。確信は疑念に、追う者は追われる者に。すべての謎は、DNAが解決する。数々の名作を生み出してきた著者が、究極の謎「人間の心」に迫る。

犯罪防止を目的としたDNA法案*1によるデータベース構築と、天才数学者・蓼科早樹が発明した画期的なDNA検索システムにより、毛髪一本でかなり詳細な人物像が絞り込めるようになった近未来が舞台。
システムの責任者である警察庁特殊解析研究所の神楽龍平(少年時代に陶芸家である父の自死をきっかけに二重人格・リュウを発症。反転剤を使って1週間に1度10時間だけリュウと人格反転する)。
電トリ(電気トリップ)*2使用による殺人事件捜査に携わり、システムによる劇的な効果を目のあたりにした警視庁捜査一課の浅間警部補(しかし本人は昔気質の刑事でコンピュータなどには疎い)。
この二人を軸にして物語が展開していきます。


もはや殺人事件において地道な聞き込みは不要になり、警察はシステムの指示通りに犯人を逮捕するだけというあっけないものになった結果、検挙率も大幅に上がったのですが、ある日容疑者がまったく検索にかからない「NF(Not Found)13」という結果を示した事件が発生しました。
その件を報告がてら、神楽は開発者である蓼科早樹に会いに行ったところ、厳重な警備の隙をついて彼女は一緒にいた兄と共に殺害されてしまいます。
しかも現場に残された毛髪を分析したところ、神楽自身が容疑者として出る結果に。
神楽がリュウに人格反転している間に事件に関わったのか?
どうやって犯人は監視カメラの隙をついたのか?
そして銃痕からNF13が使用した拳銃と同一であることから一連の事件に関わっている?
数々の謎を残したまま、警察から追われる立場となった神楽は蓼科早樹が最後に残したプログラム「モーグル」を探す旅に出ます。それが謎解きの鍵を握るであろうと信じて。
そして真実を知りたい浅間は上からの指示に逆らい独自行動の末に、神楽との協力をはかるのですが・・・。


もともとは映像化を意識していたというだけあって、画期的なDNA鑑定システムに精神障害など科学的要素をふんだんに取り入れながらも、専門的な説明は最小限にして次々に生じる謎を追う、ストーリー性重視の非常にテンポ良い作品に仕上げていますね。
これってテーマがテーマだけに、作家によってはもっと重厚で密度の濃い作品になるかもしれないです。
でもそこはばっさりやっちゃっているので、場合によっては不満に思える部分が出ることもあるわけで。
例えば

  • 物語の重要なアイテム(DNA検索システムと電トリ)のテクノロジーや効果について、もっと詳細な説明があっても良かったよね。
  • 神楽の前に現れた白いワンピースの少女の存在が最後まで曖昧なままだった。
  • 連続殺人事件の真犯人の動機が弱かったことも含めて結末が尻すぼみ。

すんなり読み終えたのですが、後になってからいろいろと考えてしまいました。

*1:義務ではなく医療機関での任意提出となっている

*2:脳に電気で刺激を与えてトリップ体験ができる装置で、麻薬に変わって若者の間に流行する