9期・52冊目 『天冥の標8 ジャイアント・アークPART1』

内容(「BOOK」データベースより)
「起きて、イサリ。奴らは撃ってきた。静かにさせましょう」―いつとも、どことも知れぬ閉鎖空間でイサリは意識を取り戻した。ようやく対面を果たしたミヒルは敵との戦いが最終段階を迎えていることを告げ、イサリに侮蔑の視線を向けるばかりだった。絶望に打ちひしがれるイサリに、監視者のひとりがささやきかける―「人間の生き残りが、まだいるかもしれないのです」。壮大なる因果がめぐるシリーズ第8巻前篇。

甲殻化により強力な武力と体を手に入れた救世群の民ですが、その副作用として怒りに我を失うと凶暴化して敵味方に関わらず攻撃してしまう。
その発作が現れた状態が咀嚼者(フェロシアン)と呼ばれるのですが、進行を抑えるために異星人の技術によって編み出したのが冷凍睡眠。
囚われのアイネイア・セアキを助けてこっそり逃がしたこと(前々巻)でイサリは救世群の権力を握った妹ミヒルに捕らわれて強制的に眠らされたわけですが、その長い眠りから目覚めたことで新たな章が始まります。
その頃、前巻の経緯を経て、惑星セレスの地下世界ブラックチェンバーで避難生活を送っていた人々の子孫は植民地メニー・メニー・シープを称した地で暮らし、技術や文化の断絶がありながらも歴史を刻んでいました。
奇しくも同じ地に根を下ろした救世群と生き残りの人類の尖兵よる戦いは地下深くで行われており、その事実を知るのはごく一部に限られていました。


未感染者の人類は敵として徹底的に掃討すべきとするミヒルに対して、できることならば協調する道を選びたいイサリ。
ヒルが皇帝として権力を持ち、自身はその駒に過ぎないことに絶望するイサリは密かに協力者を得て、脱出と人間たちに迫りくる脅威を知らせる道を選びます。
困難な脱出行の末にセナーセー市にたどり着いた後の顛末は1巻でも書かれた通りですが、お節介な観察者たる”ダダー”と地下で邂逅したカルミアンたちによって知識を補完したイサリは配電制限を機に領主ユレイン三世と人民が対立する状況の難しさに挫けそうになるばかり。
ユレイン三世の真意を見抜くもカドム・セアキらを説得する術を持たないのでした。


そのまま1巻への成り立ちを俯瞰したかのような序章であり、ようやくここにきて明確に繋がったと思うと感慨深いですな。
1巻でセナーセー市に登場したイサリと6巻PART1で登場した救世群のイサリ。
少しずつその繋がりは示唆されていましたが、そこに至るまでに激動の歴史があり、長い時を経て目覚めたイサリ視点で綴られる本巻によって、その複雑な背景が明らかになりました。
その人間離れした外見と力に反して中身は16歳の少女だというアンバランスさが1巻でのちぐはぐな印象に繋がっていたのだなぁ。
ラゴスを始めとするラバーズや石工(メイスン)として人間に奴隷の如く使役されていたカルミアンたちも今までの経緯があってこそ、メニー・メニー・シープでの立ち位置が理解できましたね。
そして久しぶりのエランカ議員の登場。
最初読んだ時こそ頼りなさげでしたが、すっかり覚醒してリーダーとしての貫録さえ感じます。
ネタバレだけど、いきなり主人公死ぬのか!と思われたカドムも一命を取り留めたみたいだし、良かった良かった。
10巻構成ということで、ここで1巻最後の顛末が明かされた後に終盤に突入してしまうのかと寂しさもありましたが、3部構成なのでまだまだ楽しめそうです(笑)