9期・43冊目 『6時間後に君は死ぬ』

6時間後に君は死ぬ (講談社文庫)

6時間後に君は死ぬ (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
6時間後の死を予言された美緒。他人の未来が見えるという青年・圭史の言葉は真実なのか。美緒は半信半疑のまま、殺人者を探し出そうとするが―刻一刻と迫る運命の瞬間。血も凍るサスペンスから心温まるファンタジーまで、稀代のストーリーテラーが卓抜したアイディアで描き出す、珠玉の連作ミステリー。

幼い頃に大病を患った山葉圭史は他人の非日常的な未来(本人曰くビジョン)を見る能力が身についてしまったという。
誕生日の前日、渋谷の街を歩いていた原田美緒は江戸川圭史(山葉圭史の仮名)と名乗る青年から「6時間後に君は死ぬ」と告げられてしまう。
新手のナンパかと相手にしなかった美緒だが、待ち合わせの友人のドタキャンを予言したことで信じざるを得なくなるのです。
ちょうどストーカー被害に遭っていたことで警察に相談。
その頃、誕生日を迎えた0時に連続して若い女性が殺される事件が発生していた。
被害者の近辺にはその死を予知していた男性がいたという情報があり、警察は参考人としてその男性を追っていたのでした。


最初の表題作、それに5年後に再会した二人が遭遇する事件を描いた最後の『3時間後に僕は死ぬ』を合わせて著者自ら脚本を手がけた2時間ドラマの原作となりました。
今まで著者の長編には外れが無く、ジャンルは違ってもいずれも魅力溢れる作品だったのですが、表題作の出来はいたって平凡。
あれ?この人、短編はダメなのか・・・と思わず思ってしまったほどでした。
先に「3時間後に僕は死ぬ」の方の感想を言うと、まだこちらの方が良かったですね。
大学教授の退官パーティーで火災に巻き込まれて美緒の目の前で死ぬ自分のビジョンを見た圭史(美緒は助かる)。
これも運命と諦めかけた圭史であったが、式場スタッフとして働いている美緒は多くの死者が出る未来をなんとか防ごうと奮闘するのです。
表題作では漫然と生きていた美緒が別人のように生き生きとして描かれていて、最後まで予知された運命に抗おうと手を尽くした結果、自分自身で未来を手にしたのが印象的でした。
ただ映像化を前提として内容のせいか、テンポは良くとも物足りなさは感じました。


むしろこの連作集の最大の収穫は間に挟まれた3編でした。ちなみにこちらでは山葉圭史は完全に脇役であり、名前しか出なかったりすることも。
『時の魔法使い』
脚本家を目指し、プロットライターとして締切に追われながらかつかつの生活をしている未来(みく)。
30歳目前にして今の境遇に疑問を覚え、ふと幸せな暮らしを送っていた故郷に行ってみることにする。そして昔かくれんぼをして遊んでいた防空壕で懐かしくて見覚えのある子供と出会う。
『恋をしてはいけない日』
どんなハイスペックな男でも労せず付き合い、振ってきた未亜。
しかし、恋をしたら不幸になると予言された日に限って今までにないタイプの男性に出会い、本気の恋に落ちてしまう。
初めて夢中になれる恋愛に思えたが、時々彼に不可解な現象が起こる。
ドールハウスのダンサー』
美帆と亜紗香の二人はダンサーのオーデション合格を目指して励む日々。
一方、ある高原で営業していたドールハウスには館長の叔母が生前製作した多数の作品が飾られていたが、ある一角には美帆の日常が切り取られたかのような場面ごとの作品が展示されていた。


『時の魔法使い』はタイムスリップ(してきた過去の自分)。
『恋をしてはいけない日』は憑依。
ドールハウスのダンサー』は予知。*1
それぞれヒロインが遭遇する非日常的な体験を描いています。
立場は異なっていても、彼女たちが自らの人生に思い悩むさまがリアルに描き出されていて、感情移入しやすかったですね。
短いながらもそれぞれの体験を通じて変化するヒロインの心理描写が秀逸です。
特に『ドールハウスのダンサー』での最後のダンスやドールハウスの作品を目にした美帆の驚きは目に浮かぶようでもあり、かつ実際に見てみたいと思わせる名場面でした。

*1:それもドールハウスによる具体的な表現