9期・39冊目 『天冥の標7 新世界ハーブC』

天冥の標VII 新世界ハーブC (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標VII 新世界ハーブC (ハヤカワ文庫JA)

内容(「BOOK」データベースより)
“救世群”が太陽系全域へと撤いた冥王斑原種により、人類社会は死滅しようとしていた。シェパード号によって“救世群”のもとから逃れたアイネイア・セアキは、辿りついた恒星船ジニ号でミゲラ・マーガスと再会する。しかし混乱する状況のなかジニ号は小惑星セレスに墜落、かろうじて生き残ったアイネイアとミゲラは、他の生存者を求めてセレス・シティへと通信を送るのだったが―さらなる絶望を描くシリーズ第7巻。

強力な感染力を持つ死病・冥王斑原種が散布されたことにより、各地でパニックや暴動が起こり、人類世界がゆっくりと崩壊に向かっていく様を描いたのが前巻まで。
そんな中で惑星セレスに墜落した恒星船ジニ号(とシェパード号)の生き残り・アイネイア・セアキとミゲラ・マーガスは他の生存者を求めて通信を送り、セレスシティの地下400メートルにある重警備階層ブラックチェンバーの中に避難していたかつてのスカウト仲間とコンタクトを取ることに成功します。
そこは単なる地下シェルターというより、巨大ホテルあるいは地下に造られた町と言っていい規模の広さをもち、最優先で避難させた大勢の子どもたちと当面の間彼らを保護する年長の少年少女たちがいたのでした。


地上は冥王斑に汚染されて人々や都市機能は死に絶え、生き残った少数のグループが存亡をかけて争っている中、いつ来るかわからない救援を待ちつつブラックチェンバーの中で生き続けなければならない。
残っていたわずかな大人たちが侵入者との戦いに殉じて消息を絶った後、アイネイアとミゲラを含めたセレスシティスカウトのメンバー9人を中心に体制を整え、生活するための環境作りに着手します。
特筆すべきは食糧・住居・仲間内での争いなど生きていくための諸問題が親元から引き離されて不安定な5万余の子どもたちという規模でのしかかってくること。
オートメーション化の進んだ未来の話ゆえに機械やロボットを活用していくものの、一時避難で集まった子供たちが(人口に比べれば)狭い空間で生活していけば問題が多発するのは止むをえません。
9人のメンバーは寝る暇もないまま奔走しますが、やがて区画の対立が無視できない規模の騒乱を招き、強硬手段によって打開しようとするのですが、それが後引く凄惨な事件の幕開けとなってしまうのです…。


天冥の標シリーズの特色として、各巻で独特の世界観が展開されており、強引に言えば単独でも充分楽しめます。
特に今回は古来から『十五少年漂流記』を始めとする少年少女サバイバルストーリーの未来SF版としても読めますね。
冥王斑を根源とする外界の脅威があるだけに主人公たちの閉塞感と重圧は計り知れないものがありますが。
でもやっぱり終盤の怒涛の展開にて、ようやく第一巻との繋がりがいろいろと明示されてきたことで、このシリーズの醍醐味を堪能することができました。
同時に時系列の謎さえも解明された上で今後の展開をどう持って行くのかという新しい楽しみができましたね。