9期・31冊目 『生存者ゼロ』

生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

内容紹介
第11回『このミステリーがすごい! 』大賞受賞作は、派手なアクションも見物、壮大なスケールで「未知の生物」との闘いを描くパニック・スリラーです。北海道根室半島沖の北太平洋に浮かぶ石油採掘基地で、職員全員が無残な死体となって発見された。原因はテロ攻撃か、謎の病原菌か……。未知の恐怖が日本に襲いかかる!

たまたま時間潰しで入った書店で目について、あらすじがパニックもの好きな自分の琴線に触れたので購入してみました。


根室半島の沖合に浮かぶ石油掘削基地TR102からの連絡が突如絶たれた。
テロかあるいは重篤な感染病発生が疑われ、たまたま付近にいた廻田三佐率いる陸自レンジャー部隊に指令が下ります。
現地で廻田らが目にしたのは全身血まみれの無残な死体の数々。
助けを呼ぶ間もなく全員が一斉に何らかの病を発症して死に至ったというのか?
そして日を置いて道東の川北という集落で同様の症状により一夜にして住民が全滅してしまいます。
遂に北海道に上陸した謎の死病に戦慄する関係者たち。
採取した細菌の謎を究明すべくアフリカ帰りの細菌学者・富樫博士が呼ばれるのですが、特に進展の無いまま過去に確執あった同僚・鹿瀬に嵌められて追放されてしまう。
その場しのぎだけで無為無策の政府首脳はあてにならず。
自衛隊では事件に最初に関与した廻田に極秘調査を命じるのですが、原因が掴めぬ内に今度は道東全体に発生してしまうのです。


タイトル通り、発症した場所では確実に全員が死亡するという新種の感染症(?)。
日を置いて発現するたびにうなぎのぼりに被害が増してゆく恐怖と一向に正体の掴めない謎。
いささか人物の主観が掴みづらいなーと思いつつも、出だしは良かったですよ。
第一発見者である廻田三佐と陰のある富樫博士の二人がキーパーソンとして物語を引っ張ってゆくのだと予想できます。
特に過去に研究所を追い出された先のアフリカで妻子を失ったばかりの富樫には孤高で偏屈な天才というイメージであり、なんらかの鍵を握る(もしかしたら事件に関与している?)と思っていたのですけど。


どうもこの世に破滅的災いをもたらす様を暗示している「パウロの黙示録」がテーマになっているらしく、コカインに手を出した挙句に禁断症状が表れ精神に破たんをきたした富樫を始め、廻田までもそれに影響され始めてから展開が怪しくなります。
黙示録の辻褄合わせのように唐突に登場人物が動き、会話もくどくなってくる上に状況描写もよろしくないので後半は更に読みづらくなってました。
それにやたらと愚物ぶりを強調し責任転嫁と罵倒の応酬までさせる政府首脳*1にはイラつかせる以外に何の意味があったのか?(他のパニックものであったように平時は平凡な人物が非常時に覚醒して指導力を発揮させた方が読んでて気分がいい)


専門的な箇所はさておき、ストーリー上あれ?と思ったこと。

  • 若く有望な部下(館山)をみすみす自殺によって失ったことが廻田の大きな悔恨となっているが、館山の自殺理由がわかりにくい(冒頭の調査のショックだけでは弱すぎる)。
  • 館山と富樫の妻が死ぬ前になぜあのような言葉を口走ったのか?
  • 禁断症状によるという富樫の凶暴化と平静状態の区別が物語が進むにつれ曖昧になっていること。
  • 戦闘中、首相が中隊の配置や移動にあれこれ指示を出すこと。
  • 富樫と弓削が乗ったヘリコプターが墜落炎上してパイロットらは死亡したが、二人だけが無傷で早々に建物内に避難していた不思議。


作中で明かされた死の原因についてネタバレするのは遠慮しておきますが、ヒントとして(解説でも言及されているように)西村寿行のパニック小説を思い浮かびます。
意外性はありましたが、数あるパニック小説の中では人物描写や迫力の面では物足りない気がしました。

*1:モデルは今は野党となっているあの政党の要人たちね