9期・6冊目 『八月の残光』

八月の残光

八月の残光

内容(「BOOK」データベースより)
昭和二十年五月一日、ベルリン陥落。日本との中立条約を破棄し、ソ連が参戦してくると考えた連合艦隊参謀・桐山静雄は極秘行動を計画した。特殊攻撃「閃作戦」―。集められたのは5人の男。そして、幻の攻撃機「流星」が三機のみ。このわずかな兵力で窮地の日本を救えるのか?だが、ソ連はすでに対策を講じ、陸軍も海軍の動きを掴み密かに動き出していた…。終戦間際、破天荒極まりない作戦に挑んだ誇り高き6人の男を描く傑作冒険ロマン。

ドイツ降伏後、未だ中立条約を結んでいたとはいえソ連の目が極東に向かうことは当然予想されていました。
しかし満州の地において精強を誇った関東軍も相次いで戦力を南方に引き抜かれていたために張り子の虎状態。
数を揃えるために開拓民の中から成年男子を徴兵して国境防衛に充てていましたが、質量ともにドイツ軍を撃破したソ連軍の敵ではないことは明らかでした。
戦力を消耗した海軍では、調達しうる限られた戦力でソ連軍の兵站に一大打撃を与えるために連合艦隊参謀・桐山静雄は極秘の特殊攻撃計画「閃作戦」を立案します。
そのために集められたのが若手とベテランを交えた5人の飛行機乗りと最新鋭の攻撃機「流星」三機。
目指すはソ連領・ハバロスク郊外にあるシベリア鉄道の鉄橋。
一方、関東軍においても精鋭を集めた特殊部隊による後方攪乱作戦「緋七号」が計画されており、二つの作戦は偶然にも同じ目標を定めていたのです。


作中でも描かれていますが、終戦間際のソ連侵攻は日本側もある程度は予測していたとはいえ時期を見誤ったことを含めてまったくの準備不足でした。
それに加えて皇軍無敵神話を信じていた民間人がまったく疎開していなかった(軍も今までの経緯から強制的に疎開させなかった)ことから、避難途中での犠牲者や残留孤児など数多くの悲劇を生み出したことはよく知られています。


ソ連侵攻を目のあたりにして、少しでも同胞が生き延びるための盾となるべく生還を期さない攻撃に打って出る。
それまでの軍本位の戦ではなく、国民を守るという本来の立ち位置に還った主人公ら陸海の軍人たちが非常に清々しいです。一方で陸軍の小隊長がいかにも利己的で帝国軍人の悪い部分を濃縮したような人物なのが対照的だなぁと思いましたけどね。
立案者である桐山少佐の背景として、五一五事件の首謀者の一人であったが当日参加できず死に場所を求めていたとか、ラバウル帰りのパイロットが不時着した付近にうまい具合に味方潜水艦がいたとか、いくつか首をかしげる部分はありましたが軍事冒険ドラマとしては程よくまとめられた内容でしょう。
条約破りの卑劣な侵略に対して、まさしくタイトルに象徴されるように日本軍人の意地を示した作戦に「流星」という不遇の高性能攻撃機を使用したということで、題材のチョイスが光る作品でしたね。