8期・71,72冊目 『悪の教典(上・下)』

悪の教典〈上〉 (文春文庫)

悪の教典〈上〉 (文春文庫)

悪の教典〈下〉 (文春文庫)

悪の教典〈下〉 (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
晨光学院町田高校の英語教師、蓮実聖司はルックスの良さと爽やかな弁舌で、生徒はもちろん、同僚やPTAをも虜にしていた。しかし彼は、邪魔者は躊躇いなく排除する共感性欠如の殺人鬼だった。学校という性善説に基づくシステムに、サイコパスが紛れこんだとき―。ピカレスクロマンの輝きを秘めた戦慄のサイコホラー傑作。

映画・ドラマにもなった話題作ですね。
もともとホラー小説で名が売れた著者ですので、こういったダークな傾向の作品は期待できるかなと思い、いつか読んでみようと思っていました。


主人公は高校教師・蓮実聖司。
生徒を飽きさせない工夫が施された授業はもとより、イジメ問題にも真剣に取り組む熱血さを持ち、親衛隊と呼ばれる女生徒のファンがいるほどの、教員・PTAにも信頼厚い人気教師であることが描かれます。
彼は幼い頃から天才と呼ばれるほどの頭脳を持っていたが、他人への共感性欠如による非人間的な冷酷さをも持ち合わせていたというのです。
蓮実聖司がただの粗暴なタイプと違っていたのは、思春期に彼の共感性欠如を見抜く人物を出会っていたことでしょうか。
普通そこで更生するところを逆に他人に外面を取り繕う演技を会得するようになり、さらに一人(同級生)は自殺し、一人(中学時代の熊谷教諭)はおそらく彼自身が殺してしまったことによって、大きく精神が歪められてしまったのかなぁと思わされましたね。熊谷教諭殺しが両親殺しに繋がったように読めましたし。
学園を自身の王国にしようという蓮見の本心とともに、過去を遡ることでそこに至るまでの道筋が浮き彫りになってゆく様はさすがに巧みに描かれていましたね。


後半は文化祭前夜の準備を泊りがけで行うことになったクラスの状況を利用して、深い関係になった女生徒を始末しようとした蓮見なのですが、いくつかの不手際があって関係ない生徒を殺してしまう。
普通ならば死体の始末と犯行の隠滅にやっきになるのですが、そこでむしろ「木を隠すに山の中へ」とばかりにその場のすべての生徒を殺戮*1することを思いつくのが蓮見の異常なところ。
彼にとって、殺人であっても己の目的を果たす手段の一つに過ぎないってことなんですね。
こういっちゃ不謹慎ではありますが、クラス中が殺人鬼に追い回されるシーンは手に汗を握る展開であり、さすがにエンターテイメントとしての実力は相変わらず。


ただですねぇ、少なくとも高校を舞台にしてからの蓮見の反社会的行動(殺人や女生徒に手を出すとか)に関しては天才と言うべき経歴とは似つかわしくない衝動的な結果ばかり目につきました
強引に一晩で一クラスの生徒殺戮という流れを作るために仕方なかったのでしょうが、どこか底の浅い蓮見にはピカレスク小説のヒーローとしての魅力は感じませんでしたね。

*1:犯人は弱みを握っていた別の教諭になすりつける