8期・41冊目 『東京大洪水』

東京大洪水 (集英社文庫)

東京大洪水 (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
大型台風23号が接近。東京上陸はないとの気象庁発表。が、日本防災研究センターの玉城はコンピュータ・シミュレーションで24号と23号が合体、未曾有の巨大台風となって首都圏を直撃することを予知。要請により荒川防災の現場に入る玉城。設計担当者として建設中の超高層マンションに篭もる妻・恵子。残された子どもたち。ひとつの家族模様を軸に空前の規模で東京水没の危機を描く、災害サスペンス3部作、堂々の完結編。

地震津波・噴火など数多くの自然災害に見舞われやすい日本。
同じように大きな災禍をもたらすものの、毎年のことで「またか」と感覚が麻痺してしまいがちなのが台風です。
台風が直撃しやすい九州・四国の方はともかく、私のように関東の内陸部に住んでいる場合はなんだかんだで脅威を感じにくいものです。
ただ東京の江東区江戸川区墨田区葛飾区などは満潮時の平均海水面よりも標高が低い土地が広がる、いわゆるゼロメートル地帯であり、水害による被害が起こりやすいと言われるし、昨今の異常気象の中でもゲリラ豪雨による交通機関の麻痺など都会のインフラの脆弱性も指摘されています。
そこであらゆる条件が重なって二つの台風が合体・巨大化して東京を襲ったら?というテーマで書かれたのが本書。
『M8』『TSUNAMI』に続く災害三部作の三作目になります。
私のレビューはこちら↓
http://d.hatena.ne.jp/goldwell/20091004/1254664676
http://d.hatena.ne.jp/goldwell/20090913/1252846125


主人公は日本防災研究センターに勤める気象学者の玉城孝彦。
コンピューターシミュレーションで未曾有の超大型台風の接近を予測、自らの論文『荒川防災研究』で指摘した”東京大洪水”が現実のものになるであろうことを危惧します。
孝彦の妻である恵子は建築士として荒川のスーパー堤防に完成間近の高層マンションの副主任として忙しい日々を送っています。
他にも災害対応で名を挙げようと野心を秘めた東京都知事や、孝彦を招聘して柔軟かつ積極的に対応しようとする区の危機管理室長といった人物の他、今までの災害シリーズに登場した人物も重要な役割を演じています。


長らく続いた秋雨で増水した河川。極めてまずいタイミングで来襲した超大型台風。
どのような被害が想定されるか、それを防ぐにはどうすべきか?
孝彦はじめ様々な人々の奔走によって徐々に緊迫感が増し、否が応でもストーリーに引き込まれてしまいます。
しかし人々の懸命な努力をあざ笑うかのように風雨は予想以上に増大し、ついに堤防決壊して東京の街は水没してしまう。
そして恵子が独断で避難住民を受け入れたマンションも暴風と荒川の水が地盤に流れ込んだ影響で倒壊の危機が。
超大型台風の前には何が起こるかわからないという孝彦の言葉が重いですね。
意外と気づきにくいことですが、発達した地下交通網に多量の水が流入してしまうことの大変さもよくわかりました。
そして災害は去って終わりなのではなく、その後の復興が長く重要であることは東日本大震災の経験によって身に沁みます。


全体的に災害小説としては充分な迫力と説得力を感じられたのですが、物語の軸となる主人公の家族模様については「基本的に家族より仕事優先」という日本人らしさが見られてちょっと嫌になりますね。
それに玉城夫妻視点に集中する余り、展開に無理が見えてややリアリティに欠けてしまった気がします。
これがハリウッド映画ならばエンターテイメントに徹して、主人公が家族も守って災害も阻止してっていう超人的活躍を見せるのかもしれませんが(笑)