8期・39冊目 『城は踊る』

内容(「BOOK」データベースより)
今回の陣触れはひどく急だった。神子田久四郎らが参陣した青山信濃守の軍勢は、国境にある敵城へと向かっていた。城主・武田左近将監の討死の報せを聞き、急ぎ出陣したにもかかわらず、榎沼城はすでにいくさ支度を調えて待ち構えていた。この城攻め、何かおかしい―。無理難題の主命、敵方には貴族出の女城主。矢玉飛び交う戦場で運と欲に翻弄される人びとは、生き残りと恩賞をかけて駆け回る。

戦国時代、南関東では北条氏と里見氏が勢力争いを繰り広げていた。
そんな中で北条配下の豪族・武田左近将監*1が遠征の地で討死。
跡取りは幼い上に人質として北条家に取られており、国境付近の城を守るは貴族出身の未亡人・麻喜殿とわずか250の兵のみ。
好機と見て出陣する里見方の青山勢1000。
大差あるゆえに攻め方の兵の誰もが楽な戦になるかと思っていたが、城方は意外にも万端の籠城準備を整えており、攻め方は思わぬ苦戦を強いられることに・・・。


在来の村から十余名の部下を引き連れて参加した青山方の地侍・神子田久四郎。
北条の軍監として派遣されて当主無き城の守りを指図する軍配者・柿沢玄信。
この二人を軸に攻守双方の視点からの籠城戦をきめ細やかに描いた作品となります。*2
大名・武将の視点で描かれる多くの戦記と違って、門や曲輪の一進一退の激しい攻防をまるで個々の兵の視点から見ているかのようにリアルに描いているのが特徴でしょうか。
神子田久四郎は若かりし頃の麻喜殿と青山氏を知るだけに戦の名目に私的な事情を感じつつも、一地侍として忠誠を見せるべく奮闘する。
また小隊長として、部下を叱咤激励して危険な戦場に赴く一方、負傷者の処遇にも配慮したり。
その労苦はどこか現代の中間管理職に通じるものがありますね。
守る方の玄信も実質的な司令官として少ない兵を巧妙に指揮しているのですが、城中では城主親族の家督争いや保身から勝手に行動する家老、そして懇ろの仲になったが何を考えているかわからない麻喜殿など、内部に火種を抱え込んでいる様子がわかります。


攻守双方の内部に抱える確執。そして二転三転する戦の状況。
迫力ある戦場のシーンだけでなく、登場人物それぞれの思惑もあって最後まで戦の行方に目が離せません。
歴史小説というと、史実を元に筆者がどれだけアレンジして物語として読ませるかが見どころになるのですが、架空なのに「本当にあったかもしれない」出来事と思わせるほどです。
どちらかというと、勧善懲悪やヒーローを求めない、戦国の雰囲気を味わうマニア向けの小説かと言えましょう。
ただ中盤までの緊迫した籠城戦に比べて、終盤のドタバタはややエンターテイメントを求めすぎたきらいがありました。
ともあれ、久しぶりに面白い戦国小説を読ませてもらいました。
お薦めしてくれたid:SumireSさんに感謝!
http://q.hatena.ne.jp/1348919763#c257354

*1:北条・里見間には上総武田氏が実在するが、その一門がモデルとなっているのかもしれない

*2:主要人物・戦いともに架空となっている