8期・38冊目 『パンデミック新時代―人類の進化とウイルスの謎に迫る』

パンデミック新時代 人類の進化とウイルスの謎に迫る

パンデミック新時代 人類の進化とウイルスの謎に迫る

内容(「BOOK」データベースより)
医学や科学技術が発展した今日でも、西ナイル熱エボラ出血熱、豚インフルや鳥インフルといったパンデミックが発生するのはなぜか?人類は太古の昔からウイルスと共に生きてきた。問題は、世界がフラット化した現代では、変異した致死性のウイルスが瞬く間に世界中に拡散してしまうことだ。どうすればパンデミックの危機を防げるのか?若き科学者ネイサン・ウルフは、パンデミックの爆心地―ジャングルの奥地でウイルスが動物からヒトへと感染するその瞬間をとらえ、警告すべく、最新の科学と通信技術を使った地球規模の免疫系を作りあげようとしている。果たして人類は、このパンデミック新時代を生き延びることができるのだろうか?サルからヒトへの進化の過程で、ウイルスが果たしてきた歴史を紐解きながら、人類とウイルスの未来図を描く、パンデミック爆心地からの最新レポート。

ウイルスと言えば、私たちにとって一番身近なインフルエンザウイルス*1を始め、数年前から猛威を振るうようになった豚インフルや鳥インフルSARS
それに感染後の重篤度としてはHIVエイズ)が有名だし、国内はともかく海外渡航時はマラリア日本脳炎など様々な感染症予防が必要であることが知られています。
しかし肝心のウイルスについてどの程度知っているかと問われてしまうと非常に怪しいものです。
そのウイルスについての概要と地球上でどのように生物と共生し、進化してきたか、世界中で起こっている感染症の実態と今後の展望についてまで、世界中を飛び回るウイルス・ハンター*2が素人に対してもわかりやすく解説しているのが本書の内容です。


最初に触れたように私たちにとってウイルスとは生物に感染症をもたらす厄介な存在として認識されがちですが、実は生物に対する作用もさまざま。急速に死に至らしめる危険なものもあれば、ただ潜伏しているだけで無害であったり、逆に体に良いものもあるそうです。
もともとが生物の体の中は微生物で溢れているわけで、それが異種間にて血液を始めとする体液の接触や生で食すことなどによって微生物の交換が発生(ウイルスの侵入・配合による変化)し、時に重篤感染症が起こりえる。
それらの条件を複合的に満たすのが人間が原始より行ってきた狩り。
今でもアフリカを始めとする地域ではサルを始めとする哺乳類を狩る習慣が原因と見られる数々の感染症、例えばエボラ出血熱(コウモリまたはサル)、マールブルグ熱(サル、コウモリ、鳥類)、HIV(サル)などの重篤アウトブレイクが報告されています。
ちょっとずれますが、驚いたのはアフリカではヒトとサルは互いに狩り狩られる関係であること。*3もっとも日本でも野生化したサルの被害が報道されることからしてそれが本来の姿なのかもしれませんが。


懸念されるのが、昔は限定された地域で収拾してきた感染症が交通手段の発達によって世界中に短時間で広がってしまうこと。
人間は科学技術の発達による恩恵を受けてきましたが、逆に思いもよらない攻撃に晒される脆弱さも持ち合わせてしまっているというのです。
それに現代において解明できたウイルスの種類は限られており、毎年のように新種が発見されているそうです。
顕微鏡でしか見られないミクロの世界こそが現代の人類に残された最大のフロンティアであることが強調されています。
原因不明の難病が微生物の研究によって治療の可能性が出てくることなど、期待できる分野であることがわかります。


他にもウイルスを巡る知識がぎっしりと詰まっていて紹介しきれないほどでした。
ウイルスというものは通常は目に見えないだけあって、何かと言うと過剰か過少かと極端な反応してしまいがち。
だけど正しい知識を得るに越したことはないのだと思いますね。
医学や生物学など理系の学問としては苦手で素人以下の知識しか持たないのですが、なぜか読み物としてのアウトブレイク・バンデミックは興味がそそられてしまう私なので飽きることなく最後までじっくり読むことができました。

*1:年初に私もA型に感染した

*2:元々生物学の教授だが、終身権のある大学教授職を投げ打ち、世界ウイルス予測(GVF)という組織を設立したという

*3:サルが人を襲うのは赤ちゃんや幼児など弱い存在に限るが