8期・37冊目 『ダークゾーン』

ダークゾーン

ダークゾーン

内容紹介
神の仕掛けか、悪魔の所業か。
地獄のバトルが今、始まる!
戦え。戦い続けろ。
1997年日本ホラー小説大賞、2005年日本推理作家協会賞長編賞、2008年日本SF大賞、2010年第1回山田風太郎賞 各賞撃破! エンターテインメント界の鬼才が贈る最新長編!


軍艦島”を舞台に描く、悪夢の世界!
 情報科学部学生で日本将棋連盟奨励会に属するプロ棋士の卵である塚田は闇の中で覚醒した。十七人の仲間とともに。場所も状況もわからぬうちに始まった闘い。人間が異形と化した駒、“敵駒として生き返る戦士”などの奇妙な戦術条件、昇格による強力化――闇の中、廃墟の島で続く、七番勝負と思われる戦いは将棋にも似ていた。現実世界との連関が見えぬまま、赤軍を率いる塚田は、五分で迎えた第五局を知略の応酬の末に失い、全駒が昇格する狂瀾のステージと化した第六局は、長期戦の末、引き分けとなった……。

見覚えのない廃墟の中で覚醒した主人公は17人の異形の仲間を従える赤の王将(キング)だった。
周囲に控えるは6体ずつのDF(ディフェンダー)と歩兵(ボーン)。
役駒として、強力な火砲を吐けるが一度使うと一時間のチャージが必要な炎蜥蜴(サラマンドラ)。
強力無比だが動きは鈍い鬼土偶(ゴーレム)。
どんな相手であろうが手で触れるだけで斃せるが防御は無きに等しい死の手(リーサル・タッチ)。*1
貴重な飛行ユニットである皮翼猿(レムール)。
そして自力では身動きできないがテレパシーを通じて仲間と意思を交わしたり、ゲームに関する知識を持っている一つ眼(キュクロプス)。
それぞれファンタジー世界から飛び出てきたかのような姿かたちと能力を持つユニットたち。名称や外見こそ違えど、赤軍と青軍は同等の戦力を持って対峙している。
青軍のキングは現実でも将棋のライバルである奥本であり、激しい戦いが繰り広げられるであろうことが予想されます。
殺った敵駒は王将(キング)が好きな時に自軍の駒として使えるというのが最大の特徴であり、ルール的には異形の駒を使った将棋に近いイメージ。
もっとも各駒の中身は主人公の恋人・理沙を始めとして現実の友人・知人であり、キングの命令に逆らえないようになっているとは言え、人としての意思を持っているのがただのゲームとは違うところでしょう。
戦いの舞台は軍艦島にそっくりな異世界(ダークゾーン)に浮かぶ島。
そこで先に4勝した方が生き残るということで、参加させられた者たちは否応無く戦いへ駆り出されるのです。*2


戦いを通じて明らかになる部分(ポイント獲得による昇格など)や設定の説明のためにしばしば長い会話が挟まれるのが気になりますが、八局*3続くゲームの進行に関しては抜群に面白いです。
優れた戦略的思考と勝つためには非情にもなれる奥本に対して、主人公は最初から受け身に立たされてしまうのですが、乱戦となった時の閃きや土壇場での粘りによって食いついていくのが見どころ。
目次からして勝負がもつれるのはわかっていても、主人公が何度も訪れる危機を脱してはしぶとく戦っていく様は手に汗握るようでした。


一方、局の合間の断章では主人公の現実が描き出されるのですが、二十歳の大学生にて日本将棋連盟奨励会に属する三段として、過酷なプロ棋士(四段)への戦いの日々を送っています。
昇段できないまま26歳になると奨励会から退会せざるを得なくなることへ焦り、恋人・理沙との仲に入り込もうとする後輩・梓の存在。
先に進むに連れて主人公の周辺に暗雲が立ち込めていくよう。
現実での出来事や登場人物がダークゾーンにおける戦いに関連性があることが少しずつ明らかになってゆくのが気になります。
主人公がわけわからぬまま異世界の生き残りゲームに参加させられるという点では著者の傑作『クリムゾンの迷宮』に似ており、ゲームの行方にハラハラドキドキさせられるという点では匹敵するのですが、現実における主人公の未熟さが気になったのと、ネタ明かしされた時点でちょっと興ざめしちゃったのは否めません。
読後感としては『クリムゾン〜』に及ばなかったですね。

*1:駒の中で唯一鬼土偶(ゴーレム)に相当する敵を倒すことができる

*2:敵を目の前にすると戦闘モードに入る

*3:引き分け一回を含む