8期・11〜13冊目 『ガダラの豚(全3巻)』

ガダラの豚 1 (集英社文庫)

ガダラの豚 1 (集英社文庫)

ガダラの豚 2 (集英社文庫)

ガダラの豚 2 (集英社文庫)

ガダラの豚 3 (集英社文庫)

ガダラの豚 3 (集英社文庫)

1巻 内容(「BOOK」データベースより)
アフリカにおける呪術医の研究でみごとな業績を示す民族学学者・大生部多一郎はテレビの人気タレント教授。彼の著書「呪術パワー・念で殺す」は超能力ブームにのってベストセラーになった。8年前に調査地の東アフリカで長女の志織が気球から落ちて死んで以来、大生部はアル中に。妻の逸美は神経を病み、奇跡が売りの新興宗教にのめり込む。大生部は奇術師のミラクルと共に逸美の奪還を企てるが…。超能力・占い・宗教。現代の闇を抉る物語。まじりけなしの大エンターテイメント。日本推理作家協会賞受賞作。

超能力ブームに便乗したテレビ番組へのゲスト出演によって名が知られ、一般向けの呪術著書がベストセラーになった民族学学者・大生部多一郎−本来はフィールドワークが専門でテレビ出演は本意ではない学究肌の学者。
8年前にアフリカ・ケニアの地での気球事故で長女・志織を失って以来、大生部は重度のアルコール依存症となり、妻・逸美は自らを責める余り神経を病んでしまう。当時は幼く祖父母に預けられていた長男の納(おさむ)のみ飄々としているが…。
そんな大生部一家を中心に助手の道満、超能力者の清川、奇術師にして偽超能力者ハンターのミラクル、女性心理学者・秋山などの個性的な人物が登場。
日本国内のみならず、遠くアフリカの地まで乗り込み、超能力・呪術・宗教を巡って大生部家が大騒動に巻き込まれる(巻き起こす?)一大エンターテイメント小説です。


第一部はテレビ出演を通じて大生部多一郎が清川、ミラクルらと出会う人物紹介を兼ねた序章。
新興宗教にのめり込んで喜捨を始めた逸美の目を覚ますためにその本部に乗り込む。
人はなぜ超能力や奇跡というものに騙されるか?
懐疑的な人ほど「この目で見ないと信じられない」と言うが、実際は錯覚や心理効果などによって目ほど騙されやすいという。
私自身、子供の頃から20代にかけてスプーン曲げなどの超能力ブームやオウム真理教事件を見てきたわけで、その舞台裏までも描いた第一部は非常に興味深かったです。


第二部はアフリカ編。番組企画の目玉として、アフリカ呪術の本場・ケニアの奥地へその道の第一人者・大生部教授とその家族が訪れる企画。
異国の地において新鮮な驚きに包まれる納や清川らに対して、マイペースな大生部教授や自分らしさを取り戻した逸美の描写が微笑ましい。
順調だった取材旅行だったが、大生部にとって8年ぶりに訪れた呪術師の村は外部から来た呪術の大物・バキリによって変貌していた・・・。
ケニアはおろかアフリカ自体メディアでしか知ることが無いけれど、まるごと一冊ケニアでの旅行描写に費やされ、まるで読者もその場で体験してきたかのように感じてしまえる臨場感がすごい。
そして人々の暮らしに密着し、かの地では法として機能している呪術に対する薀蓄がふんだんに記されています。
ミステリアスかつ迷信めいたアフリカの呪術もそこで暮らす人々の感情と集団生活に密接に関わっているわけで、人種と文化は違えど決して現代日本人に理解できないものでは無いですね。


第三部はバキリのキジー*1にされていた少女・シオリ(奇跡的に生存していたが記憶を失くしてバキリのもとで育てられていた大生部夫妻の娘・志織)を取り戻し、命からがら日本に帰還した大生部たち。
希代の奇術師か本物の呪術師か?
シオリの再奪回に執念を燃やすバキリは日本に密入国して、あらゆる手立てを講じて迫りくる。大生部ファミリーの関係者は為すすべもなく犠牲者が出てしまう。
そしてバキリとの最終対決となったテレビ局内での騒動が圧巻のラスト。
もしこの三部だけならばただのドタバタ・スプラティックな内容だったのだろうけど、一部・二部の積み重ねがあるだけにただならぬバキリの恐怖が伝わり、悪戦苦闘する大生部親子に目が離せないです。
これだけの長編なのに飽きもせず最後まで引っ張られ、最後まで先が読めない。
傑作だという評判を信じて読み始めたけど、さらに想像を上回る面白さでした。

*1:呪術の力を増幅させる秘宝