8期・8冊目 『銀河不動産の超越 Transcendence of Ginga Estate Agency』

内容紹介
気力と体力不足の高橋が、やっと職を得たのは下町の「銀河不動産」。頑張らずに生きる――そんな省エネ青年を訪れる、奇妙な要望をもったお客たち。彼らに物件を紹介するうちに、彼自身が不思議な家の住人となっていた……? 「幸せを築こうとする努力」が奏でる、やさしくあたたかい森ミステリィ組曲

森博嗣は数年前に『すべてはFになる』読んで以来なんとなくですが離れていました。
今回はちょっと毛色が違う本作を知って久しぶりに読んでみようかと思った次第です。


主人公である高橋は生来の気力と体力の無さで、そこそこいい大学を出たのに就職先として決まったのがスケールの大きな名前の割にはどこの商店街にも存在してそうな規模の「銀河不動産」。
そこは癖のある銀亀社長と有能だけど謎めいた事務員の佐賀に新入社員の高橋を加えた三人の小さな企業(というより店舗)。やや不安のある出だしです。
気力・体力に自信が無いといいつつもきちんと業務を覚えてこなしてゆくのですが、近隣では名の知れた富豪である間宮夫人に出会い、アトリエかスタジオのような広さと構造を持つ不思議な戸建物件を紹介したら逆に高橋の方が間借りすることになって、平凡だった彼の人生は妙な具合に進んでゆくのです。
30代のバンドマン。
二人暮らしの芸術家の卵の女性。
定年退職して高齢者向けのレジャー施設を自作しようとしているおじさん。
一風変わったお客が銀河不動産を訪れ、その要望を聞いて高橋は奔走します。
だけどなんだかんだでみな高橋の住んでいる家を一目見て気に入り、一時的ながら一緒に住むことに。
そうやってだだっ広い家の隅っこに一人暮らしていた高橋の元に来ては去ってゆくさまがほのぼのとして描かれていきます。
そして遂には高橋と結婚したいという女性まで押しかけてきて・・・。


高橋は基本的に受け身で頼まれたら嫌と言えない性分なのですが、優柔不断というのとは違って、あくまでも相手にためを思っている。器が大きいというのでしょうかね。
だからイライラするというより、大丈夫なのかなぁとついつい先が気になってしまいました。
まぁ経済的な問題が生じても結果的に間宮夫人の好意によって解決しちゃうなど、都合良すぎる部分は無きにしも非ずですが、これは一種の現代ファンタジーとして難しく考えずに楽しむ作品なのでしょうね。