8期・7冊目 『鉄道員(ぽっぽや)』

鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)

鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
娘を亡くした日も、妻を亡くした日も、男は駅に立ち続けた…。映画化され大ヒットした表題作「鉄道員」はじめ「ラブ・レター」「角筈にて」「うらぼんえ」「オリヲン座からの招待状」など、珠玉の短篇8作品を収録。日本中、150万人を感涙の渦に巻き込んだ空前のベストセラー作品集にあらたな「あとがき」を加えた。第117回直木賞を受賞。

浅田次郎の作品はいくつか読んでますが、今年は『蒼穹の昴』を始めとする清朝末期シリーズを読んでみようかと思っていたところです。
でもその前に高倉健主演の表題作の映画は見たものの、原作は未読だったことに思いついて本作を手に取ってみた次第です。
収録作は以下の通り。

娘を亡くした日も、妻を亡くした日も、駅に立ち続けた鉄道員・佐藤乙松。定年退職を間近に迎えた正月の夜、故郷帰りらしき少女に出会った。乙松は少女に亡き娘の面影を重ねてしまう。

  • ラブ・レター

留置所から出所したばかりの吾郎のもとに、偽装結婚した出稼ぎの中国人女性が若くして病死したとの知らせがあった。戸籍上は妻であるが、一度も会ったこともない女性からの手紙を読み、なぜか吾郎の心が揺れ動く。

  • 悪魔

新しく来た家庭教師の大学生の男は「僕」には”悪魔”に見えた。
そして家庭教師が来て以来、裕福だった家に禍々しい影が落ち始めた。

会社の送別会の帰り、繁華街で幼少の頃に自分を捨てた父の姿を見かける。しかもなぜか別れた当時の姿のままだった。

  • 伽羅

トップセールスを誇っていた営業マンの主人公だが、紹介されたブティック「伽羅」の女性オーナーに惹かれて、営業マンらしからぬ行動を取ってしまう。

  • うらぼんえ

夫側親戚の中では唯一可愛がってもらった義祖父の新盆のために夫の帰郷に付き添った妻。しかし舅・夫らは子もできず仕事も辞めない妻と別れさせ、妊娠した浮気相手の若い看護婦を後釜にすえようと画策していた。

  • ろくでなしのサンタ

クリスマスイブに留置所から出所した三太(さんた)。口下手で不器用なために割を食って母と妻子を残して禁固刑に処せられるであろう留置所仲間の北川のことが頭から離れない。

幼馴染同士で結婚したが今は別居状態で完全に冷え切っている夫婦のもとに故郷の映画館の最終興業の招待状が来る。二人は故郷に帰り、昔と変わらない佇まいのオリヲン座にて過去の自分たち、そして今を見つめなおす。


主人公が小学生である「悪魔」を除けばほぼ中高年男女が主な登場人物、なおかつ描かれる時代も昭和の色合い濃く、まさに中高年向けの短編集と言えるでしょう。
特に故郷や家族がキーワードになっているので、作品によっては自分自身に投影させて想いがこみ上げることもあり得ます。
抒情溢れる描写の心温まるストーリーが多く占めていますが、短編だけにすんなり感情移入できるか、それとも展開が唐突に感じてしまうかは読む人によって分かれるかもしれません。
私個人で言えば、前者は「鉄道員(ぽっぽや)」や「オリヲン座からの招待状」であり、後者は「ラブ・レター」や「ろくでなしのサンタ」でありました。