8期・4,5冊目 『天冥の標6 宿怨 PART1,2』

天冥の標6 宿怨 PART1 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標6 宿怨 PART1 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標6 宿怨 PART 2 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標6 宿怨 PART 2 (ハヤカワ文庫JA)

PART1

内容紹介
西暦2499年、人工宇宙島群スカイシー3で遭難した《救世群》の少女イサリは、《非染者》の少年アイネイアに助けられた。
二人は、氷雪のシリンダー世界を脱出するた めの冒険行に出発するが――。
一方、太陽系世界を支配するロイズ非分極保険社団傘下の、MHD社筆頭執行責任者ジェズベルは、近年、反体制活動を活発化させる《救世群》に対し、根本的な方針変更を決断しようとしていた。
大いなる転換点を迎える第6巻前篇

「本物のリンゴ*1が食べたい」
それだけの理由で惑星スカイシー3訪問中の《救世群》一行から逃げ出した少女イサリはあまりに無謀な探検に出て、氷雪のシリンダー世界にて遭難する。
危うく凍死するところを救ったのが少年アイネイア・セアキと相棒のロボット・フェオドール。
困っている人は助けざるを得ないボーイスカウト精神に則り、かくして二人と一体、そしてスカウトの仲間たちと行動することになります。
爽やかさとほろ苦さが入り混じる少年少女の一期一会が描かれた序盤から一転して、アイネイアの帰宅とともに彼の両親祖母の特殊な事情、その時代の状況が明かされていきます。
各国家間の戦乱とそれに続く宇宙海賊の跳梁が収まった太陽系では。ロイズ非分極保険社団およびその傘下企業があらゆる面で人類社会に影響を及ぼしている。
特にアイネイアの母がトップを務めるMHD社では兵器やロボットを隅々まで流通させ、かつあらゆる種類の保険を介して事実上の治安維持を任じる存在となっている。
しかし、500年の長きに渡って隔離されてきた《救世群(プラクティス)》は同じく人類社会にとって特殊な存在である<<恋人たち(ラバーズ)>>と連携して、反体制的な動きを強めているといった流れ。
《非染者》の人類に対して敵対心を露わにし、武力に訴えようとする《救世群》の首脳たち。
その中にあってイサリはアイネイア達と過ごした日々を思い、目指す将来に不安を感じてしまう。


各勢力の紹介を兼ねて展開されてきたのが5巻までですが、この6巻(PART 1〜3)は時系列的に最後である1巻に向けて様々な勢力が絡み合い、そして収束してゆくのかなと思います。
そしてサブタイトルの「宿怨」*2は当然、長年迫害されてきた《救世群(プラクティス)》の内に存在するものであろうことは想像できるのですが、そこに<<恋人たち(ラバーズ)>>や冥王斑に罹って故郷ノイジーラントを追放されたワイラケイ派、対する立場としてロイズや恒星間航行を企てているノイジーラント主教国の思惑が入り混じっていくのでしょうね。
冒頭のイサリとセアキのように世代を超えてお馴染みの名前が登場するのがヒントでもあり、謎でもあります。
密やかながら激しく争っているノルルスカインたちの攻防にも目が離せません。
それにしても、巻ごとに世代交代しているのに、さりげなく繋がりを暗示させているのが巧いですね。
付録として、年表と1〜5巻の登場人物・キーワードが記載されているので、シリーズを振り返るのにちょうどいい資料となっています。

PART2

内容(「BOOK」データベースより)
太陽系世界の均一化をめざすロイズ非分極保険社団に対して、“救世群”副議長ロサリオ・クルメーロは、同胞に硬殻化を施して強硬路線を推し進める。その背後には秘かに太陽系を訪れていた異星人“穏健な者”の強大なテクノロジーの恩恵があった。いっぽうセレス・シティの少年アイネイアは、人類初の恒星船ジニ号の乗組員に選ばれ、3年後の出航を前に訓練の日々を送っていたが―すべての因果が悲劇を生む第6巻第2弾。

五百年の長きに渡って積もり積もった“救世群”の宿怨が爆発したと言ってもいいでしょうか。
とある目的をもって太陽系に来訪したカンミアという異星人*3と出会ったことで、“救世群”は身体の硬殻化(クラスト)などその優れた科学テクノロジーを取り込んでいく。
⇒PART1で登場した准将オガシがなぜそのような姿になったかが説明される
そして各国が列席する安全保障会議(Q2UA)にて待遇改善を求めていた副議長ロサリオ・クルメーロの交渉が手のひらを返すような仕打ちを受け、ついに“救世群”は戦端を開くことを選択。
恒星船ジニ号の乗組員に選ばれて訓練にいそしむアイネイア・セアキと恋人ミゲラ、そして“救世群”の内継嗣の地位にありながら戦争を避けたいと願うイサリ。
彼・彼女らの思い虚しく“救世群”は《非染者》との全面戦争に突入してしまう。


まさに怒涛の展開でした。
数的に圧倒的不利にあるはずのブラス・ウォッチ(“救世群”とワイラケイ派の合成軍)の目覚ましい勝利の陰でその敵に対する容赦ない手段に戦慄。
MHD社トップを務めるアイネイアの母のところまで触手を伸ばしていた「血脈」*4に恐怖。
そして驚愕のラスト。
様々な巡り合わせが大いなる悲劇を呼んでしまった気がしてなりません。
他にも気になる点があります。
ついに動き出したドロテア・ワットの行先とか、硬殻化したイサリと第1巻に登場したイサリとの関連とか。
そして混乱の太陽系を後にしたジニ号の探検行はどうなるのか?そして内部崩壊の兆しが見える“救世群”の運命は?
いやが上にもPART3への期待が高まります。

*1:5巻登場のタックが栽培に成功した明星種

*2:宿怨…かねてからの恨み。年来の恨み。旧怨。宿恨。宿意。

*3:カルミアン(穏健な者)と名づけられる

*4:5巻登場のオムニフロラ(ツル性異星人)がその正体でいいのだろうか