7期・68冊目 『卒業』

卒業 (講談社文庫)

卒業 (講談社文庫)

内容紹介
7人の大学4年生が秋を迎え、就職、恋愛に忙しい季節。ある日、祥子が自室で死んだ。部屋は密室、自殺か、他殺か?
心やさしき大学生名探偵・加賀恭一郎は、祥子が残した日記を手掛りに死の謎を追求する。しかし、第2の事件はさらに異常なものだった。茶道の作法の中に秘められた殺人ゲームの真相は!?

高校以来の仲良しグループの大学生男女7人。
最後の部活の大会や就職活動に忙しい4年の時期に一人の女性・祥子がアパートの自室で死んでいた。
密室状態の中で、特に不審な点が無いことから自殺が有力と見られるも、グループの中でそれに納得できない波香と沙都子、それに加賀恭一郎は残された日記をもとに素人捜査に取り組む、
しかしその後の高校時代の恩師に招かれた茶会の席で今度は波香が毒物によって死亡する事件が発生。
果たして二つの死は何らかの関係があるのか・・・?


東野圭吾のミステリではガリレオシリーズの物理学者・湯川学と並ぶ加賀恭一郎シリーズの刑事・加賀恭一郎。
彼がまだ在学中という設定の物語であり、著者の作品の中では初期のものとなります。
本職の刑事となってからは鋭い推理で犯人を追いつめる加賀恭一郎もまだ学生ゆえに何度も思いついては行き詰まったり、他の人の助けを得たりして苦労して真相に迫ってゆく。それが多少もどかしい思いはしますが、まぁ仕方ないとは言えるでしょう。
情に流されずに真実を追求しようとする姿勢はシリーズの他の作品に繋がるものがあります。
ところで、描かれている学内の背景は80年代後半でしょうか?
私個人の頃とさほど離れていないから普通ならば懐かしさを覚えるはずでしょうが、なぜだかそんなこともなく淡々と読んでしまった気がします。
肝心の大学生活だけでなく人物描写にもどこか薄っぺらくて、終盤に明かされた動機もなにやら唐突な感じがしました。初期作品ゆえの硬さと言ったら仕方ないのでしょうか。


トリックに関して、密室を解くカギについてはわかりやすい伏線もあって良かったのですが、第2の事件については馴染みの無い茶の作法の煩雑さに加えて、犯行自体が賭けとなっている部分がちょっと納得がいかない気がしました。
高校・大学を通じて続いた人間関係がちょっとしたきっかけで壊れてしまう脆さというものを伝えたかったのかもしれませんが、それを殺人事件に結びつけるのはやや無理やり感があったかなという気がします。