7期・63冊目 『業政駆ける』

業政駈ける

業政駈ける

内容(「BOOK」データベースより)
西上野の地侍たちから盟主と仰がれ、信義あふれる心で上杉謙信をも動かした知将、箕輪城主・長野業政。利欲を捨て、国を豊かにし、民の暮らしを守る―。河越夜戦で逝った息子への誓いと上州侍の誇りを胸に、度重なる武田軍の侵攻に敢然と立ち向かった気骨の生涯を描く。

戦国時代を取り上げた歴史小説というと、やはり近畿・東海偏重で、東国の中でも特に関東はあまり読む機会が無いんですよね。
そんな中で上州(群馬県)を代表する武将として、西上野の箕輪城*1を本拠地とした長野業政を取り上げたのがこちらの作品。
もともとは関東管領山内上杉家支配下にあった上野国ですが、北条氏の台頭によって当主・憲政は逃走。重臣である長野業政が西上野一帯を治めていました。
そこで信州を押えた武田晴信(信玄)が上野にも手を伸ばしてきたというのが始まり。
武田軍相手に業政が諸豪族を率いて立ち向かおうとするさまが描かれます。
ただでさえ戦国大名としてその強さには定評がある武田軍に対して、中小豪族の連合というのはたとえ数は揃っても脆いもの。調略を受けることは勿論、いざ戦場において指揮に従わなかったり。
本作には業政に恩を受けながら、武田に属して敵として戦う運命になってしまった真田幸隆が登場しますが、大勢力に挟まれ選択を誤るとすぐさま存亡に関わる苦労する中小勢力の苦悩もあって良かったですね。


正面きっての野戦においてはさすがに武田に利があれども、籠城戦や奇襲で敵を翻弄し、幾度となく撃退するさまが清々しい。
信玄をして「長野業政がいる限り、西上野には手が出せぬ」と言わしめた伝説*2があるのもうなづけるほどの活躍ぶりです。
この長野業政のすごいところは、50歳を超えてから天下の武田軍との激戦を何度も繰り返したところ。
勇猛なばかりでなく、大軍に立ち向かうために知恵を絞り、一度の勝利に驕ることない冷静沈着な武将。そして戦ばかりでなく内政にも外交にも奔走する名君として描かれています。
弱点としては女に弱いところでしょうか(笑)
結果的には12人も設けた娘が周囲の豪族に嫁いで、結束を固めることになったのですが、武将としてパーフェクトに見えても50超えて煩悩を捨てきれないところが逆に人間的魅力を増しているように思えます。

*1:群馬県高崎市

*2:この信玄vs業政の戦いは史料に乏しいために伝説の域を出ない