7期・46冊目 『介護退職』

介護退職

介護退職

内容(「BOOK」データベースより)
故郷で暮らす老母が雪かき中に骨折した―。突然介護を託された男の人生に、光は射すのか?今そこにある危機を、真っ正面から見据えた問題作。

大手家電メーカーの部長職にあり、海外販売プロジェクトの指揮のために激務の日々を送っていた主人公。
田舎に一人残してきた母親が雪かきの最中に骨折してしまい、当面車椅子の生活になってしまいます。
腹をくくって看護とリハビリのために都内の自宅に引き取ることにしたのですが、環境が様変わりした関係か認知症を発症。更に献身的な介護を続けてきた妻がストレスによってクモ膜下出血で倒れてしまい、今までの仕事を続けてゆくことが難しくなった主人公は閑職にまわされた末に早期退職への道を選んでいくという内容です。


子供の時分から祖父母の介護に苦労する親の姿を見てきて、今も両親健在とは言え、近い将来に今度は自分の身に迎えるであろう問題として他人事とは思えず手に取った作品でした。
単行本出版にあたって変えられたようですが、読了してみると『介護退職』というタイトルは内容にそぐわないです。
社運を賭けた大事なプロジェクトに携わっていること、遅くできた息子の中学受験、それに新たに加わったのが遠く離れて暮らしてきた母の世話をどうするか、主人公が悩むあたりはまだわかるんです。
しかし結局を引き取ったとはいえ、実際は倒れるまで妻に丸投げ。もろ生活に影響を受けたはずの妻と息子の描写はほんのわずかしかなく、どちらかというとサラリーマンの挫折と再起の方がメインとなっているんですよね。


登場する人物も妙に物わかりが良くて、予定調和が約束されたテレビドラマのよう。
更に年収1000万で余裕の無い生活とかどこの世界の話でしょう(苦笑)
車椅子ゆえに徘徊の問題は出てきませんが、それでも認知症の老人に振り回されたり、介護を巡る家族の葛藤がもっとあってもいいはず。
現実には頼れる人も施設も思ったより無く、仕事が続けられずに苦しい生活の中で終わりの見えない介護を長く続けている人が多いのではないでしょうか。
それゆえ退職前と同様の待遇を得た主人公が再び介護を妻と義妹に任せて海外に赴任するという非現実的な結末には納得がいかないのでした。


どうせ介護問題をベースにして描く小説ならば、同著者の『プラチナタウン』の方がまだ内容的に良かったですね。