7期・44,45冊目 『天冥の標1―メニー・メニー・シープ(上・下)』

内容(「BOOK」データベースより)
西暦2803年、植民星メニー・メニー・シープは入植300周年を迎えようとしていた。しかし臨時総督のユレイン三世は、地中深くに眠る植民船シェパード号の発電炉不調を理由に、植民地全域に配電制限などの弾圧を加えつつあった。そんな状況下、セナーセー市の医師カドムは、“海の一統”のアクリラから緊急の要請を受ける。街に謎の疫病が蔓延しているというのだが…小川一水が満を持して放つ全10巻の新シリーズ開幕篇。

小川一水のSF長編新シリーズということで、とりあえず1巻を買ったものの、続編*1が数揃うまで少し待っていようかと思っていたら1年以上積読してしまいました。


舞台は人類が宇宙に進出して数多く植民した惑星の中の一つハーブC(通称・メニー・メニー・シープ)。
しかし到着時に事故が発生して資材と技術の多くが失われてしまった上に、地下資源より化石燃料が採掘できないということで、エネルギー源としては地下に眠る植民船シェパード号の発電炉からの電力が頼り。
植民300年が経とうとしている現在ではかつての科学技術の多くは失われて文化的に宇宙進出時より後退、しかもシェパード号のコンピュータへの指示権限を唯一握る甲板長が臨時総督として代々権力を握り中世さながらの独裁体制を布いていたというのが背景にあります。
作品内に登場するのは普通の人間だけでなく、遺伝子改造により肺呼吸を捨て電力によって生きる人類<<海の一統(アンチョークス)>>、人間に奉仕するために生み出されたアンドロイド<<恋人たち(ラバーズ)>>、植民当時から使役され時には軍事にも転用されるロボットたち。
それに加えてハーブC原住民と思われる、人間に支配された昆虫型異星人<<石工(メイスン)>>、そして謎の獣人系異種族<<咀嚼者(フェロシアン)>>。


表向き旧式化した設備の改修という名目において臨時総督は徐々に電力供給量を制限していくだけでなく様々な事業へ干渉を強め、表立って反発する人々には容赦ない弾圧が下る。総督を掣肘すべき議会は癒着と腐敗によって機能せず。
ほのぼのとした出だしですが、何人かのキーパーソンを立ててこの惑星が抱えている問題を小出しに見せてゆく演出が巧く、物語に引き込まれていきます。
人々は社会に不満を抱きながらも今まで変わりない平和な日々が続くと思っていたのですが、総督および政府首脳がシェパード号を復活させてこの星から脱出するという噂が出始め、次第にきな臭い状況となってゆくのです。
人間とそれに関わる異種族・ロボットたちは歪な関係にあって、どこか無理を感じさせるところが先行きになんらかの影響を与えるのではないかと思わせます。


途中、<<海の一統(アンチョークス)>>のグループが封鎖された大陸を脱出した際に、謎の外壁工事や地下世界などのハーブCの知られざる部分が垣間見られ、若き臨時総督も大きな秘密を抱えることによってストレスに悩まされているらしい状況がわかります。
そうこうしているうちに反体制派と総督側の抗争が激化し内戦へと発展。怒涛の展開から新たな局面を迎えるまでを描いているのですが、ハーブC植民史に埋もれていたであろういくつもの謎は2巻以降で明かされるのでしょうか?
最後は「えっ!?」と思わず声が出てしまうほど*2だったので続きが非常に気になります。

*1:2012年5月発売の第6弾が最新刊らしい

*2:若干ネタバレすると主要人物が次々と亡くなってしまうのとパンドラの箱を開けた如き災厄