- 作者: スティーヴン・キング,深町真理子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1982/09
- メディア: 文庫
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組織に追われ、世間にも受け入れられない孤独な超能力者というテーマでは『七瀬ふたたび』などにも通じるものがあります。
本作は父娘による物語であるものの、読み終えて特に印象に残るのが念力放火(パイロキネシス)能力を持つ少女チャーリー。
そういえば超能力者のヒロインというと、可憐ながらも薄幸な女性が登場することが多い気がしますね。*1
大学での気軽なアルバイト感覚で参加した薬物実験。それがきっかけで超能力に覚醒した男女。やがて二人は結婚して女の子が生まれる。
”押す”ことで無意識に他人の精神を操ることができる(多用すると激しい疲労と頭痛を伴う副作用がある)父・アンディと、離れたところから冷蔵後の扉を閉める程度の軽い念動力を持っていた母・ヴィッキー。
その二人の間の娘・チャーリーは生まれながらに強力な念力放火(パイロキネシス)能力を有していて、癇癪を起こすたびに周りを焼け焦がしてしまうために両親は苦労してその力を抑えようとします。
多難ながらも平和な日々は実験直後から彼らを監視していた政府機関の店(ザ・ショップ)*2の管理下の元に成り立っていたのですが、ある日監視員の勘違いによってヴィッキーが殺されてチャーリーは連れ去られてしまう。
第六感が働き、急きょ監視員を追ったアンディはその能力を最大限に使って彼らを精神的な意味で半殺しの目に遭わせ、以降長い逃亡生活を送ることになっているというのが背景として描かれます。
そのさなかでチャーリーが父を守るために念力放火能力を発揮し、大火災の末に店のエージェントを死傷させてしまうのですが、かえってその能力に興味を抱かれてしまうという皮肉。
ついに隠れ家の別荘を奇襲されて捕まってしまい、店の本部にて軟禁生活を送る境遇になった二人。薬によって怠惰で無気力な状態に陥った父と心を閉ざしたままの娘でしたが、ある雷雨の夜の停電をきっかけに何かが変わっていき、やがて大惨事を巻き起こす…。
主にアンディとチャーリー、そして店の殺し屋ジョン・レインバード視点と交互に進行していくのですが、今回はキャラクター造形も良くてS・キング独特の細緻で情感溢れる描写が秀逸でどっぷり物語に入り込めますね。
父子の互いを大切に想う気持ちはもちろんですが、インディアン出身の独特の死生観を持ちチャーリーに対して奇妙な親愛の情を抱くレインバードも憎みきれない。
行きがかり上、父子を匿ったがために家を燃やされ怪我を負うも、自身の信条を曲げない良い意味での田舎の頑固親父マンダーズにも心を動かされました。
そして後半の静から動へと劇的に動く展開に思わず引きずり込まれました。
結末としても、チャーリーの愛らしい笑顔とともに、一筋の光明が見られる終わりだったのが良かったです。