7期・15冊目 『我らが影の声』

我らが影の声 (創元推理文庫)

我らが影の声 (創元推理文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
兄が死んだのは、ぼくが十三のときだった。線路を渡ろうとして転び、第三軌条に触れて感電死したのだ。いや、それは嘘、ほんとはぼくが…。ぼくは今、ウィーンで作家活動をしている。映画狂のすてきな夫婦とも知り合い、毎日が楽しくてしかたない。兄のことも遠い昔の話になった。それなのに―。キャロルの作品中、最も恐ろしい結末。待ちに待たれた長編第二作がついに登場。

相当なワルでありつつも魅力的な人物としてのエピソードが描かれる兄の存在。
おとなしい弟であった主人公はそんな兄に憧れつつも妬んでいたのではないかと複雑な心境を伺わせますね。兄弟がいればそんな葛藤は多少なりともある話ですが、その兄が若くして死んだ理由に関わり、母も壊れてしまったとすればトラウマにならない方が不思議。
その後、兄たちの青春時代を題材に書いた小説が演劇化されて大ヒット。原作者として名声と収入に恵まれるも、換骨奪胎されている内容のために素直に喜べない。
それでもウィーンにて執筆活動を続ける主人公は年上の魅力的な夫婦と出会い、すっかり意気投合して友人として過ごすことになるのですが…。


ウィーンの様々な季節において主人公たちが楽しむ日常描写は情感に溢れ、読んでいるこちらも飽きさせない。
しかしあるきっかけで脆くも友情は崩れ、彼らを包む世界は一転して恐怖と化す。それは実際に超常現象として起こっているのか、それとも精神的な理由に帰するものなのか、はっきりしないのが怖いとも言えるしもどかしいとも言えます。


うーむ、これ以上のネタばれ無しでの紹介は難しい。いやネタばれしたとしても読む人によって感じ方は違うかなぁ。
個人的には結末は確かにゾっとするけど、「最も恐ろしい結末。」「底知れぬ恐怖の結末」と煽るほどではないですよ。いや、ホラー読み過ぎて感覚が麻痺しているだけかもしれませんが。日常の中でひょいと顔を出す恐怖の演出は巧いとは思いましたけどね。