7期・9,10冊目 『昨日は彼女も恋してた』〜『明日も彼女は恋をする』

内容(「BOOK」データベースより)
小さな離島に住む僕。車いすに乗る少女・マチ。僕とマチは不仲だ。いつからかそうなってしまった。そんな二人が、なぜか時空を超えた。はじめは二人はどこにいるのかわからなかった。島の景観なんて、十年やそこらじゃ変化しないから。『過去』に来たと分かったのは、向こうから自分の足で走ってくる、『小さいマチ』を見たからだ。僕は驚き、そして思いつく。やり直すことができると。ずっと後悔していたことを、この、過去という『現在』で。『明日も彼女は恋をする』との上下巻構成。

作品内で何度も引用されている映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」がモチーフになっていることは明らか。車型タイムマシン*1に乗ってタイムスリップしたり、時間を超えても”ドク”ならぬ自称天才科学者(松平)にいろいろと協力してもらったり。
特に時系列的には最初のタイムスリップが成功して喜んでいる松平のところに未来から帰還した「僕」が戻ってきてびっくりするところなんぞ、映画のPart2冒頭を彷彿させる場面ですね。


そんで、内容としては小さいな島で暮らす大学生の「僕」が9年前に戻って、現在では険悪な状態(その原因は(「僕」にある))である少女(マチ)との仲をやり直そうと奔走する。
自身の過去の過ちによって壊れてしまったほのかな恋をやりなおしたいというのはよくわかる気がします。
「僕」の行動が少しずつ歴史を変えていくというタイムスリップものの定番なんですが、男女の視点が交互に展開されていて、それぞれ小学生時代の相方との絡みがあるのが特徴。それによって過去の感情が想起されて、タイムスリップした二人の関係に微妙に影響を与えていくところが面白い。
上巻はほのぼのとした青春ものといった感じで、ちょっと「僕」がへたれで読んでいる方はやきもきしてしまうのですが、徐々にハッピーエンド(仲直り)に近づいていくかと思いきや、現代に戻ったところで思いがけない結果が待っています。
で、下巻の感想はネタばれ含みますので、これから読む方はスルー推奨。




下巻で本名やあだ名の由来が明かされてカラクリが少しずつわかってくるというか、表紙でも物語っているように、カップルは二組あったわけですね。
で、視点が分かれているところが人物すりかえのトリックとなっていることに気付くわけです。いや読み終わってからもしばらく考え込みましたけど。
登場する二組のカップルのフルネームとあだ名・別名をあてはめてみると以下の通りとなります。
一組目
玻璃綾乃(はり・あやの)=ヤガミカズヒコ ※男*2
井上真理=「マチ」
二組目
林田近雄=「ニア」
裏袋美佳=みぃちゃん*3


上巻までは「ニア」と「マチ」の二人の物語だと思っていたのですが、実は「僕」視点が玻璃綾乃(過去においてはヤガミカズヒコ)なのに対し、「わたし」視点が一回目のタイムスリップの結果、車椅子を使用することになった裏袋だったということで見事騙されてしまったわけです。つまり同時進行ではなく、時系列がずれていたのですね。
それに加えて、下巻の「僕」視点では「マチ」が、「わたし」視点では「ニア」が9年前に死亡しており、それぞれ原因追求とそれをなんとか防ぐべく動き出す。なぜか「わたし」は足の障害が無くて車椅子が不要となっていたりするわけですが。


結果的にあちらを立てればこちらが立たず。
「僕」は「マチ」を死から救うために過去に残り、
ニアは愛する少女の足と引き換えに本来の死を受け入れ、
そして少女は・・・
9年の時を隔てた自分と「マチ」を見送る「僕」の感情がやるせないです。


つまるところ、最初のタイムスリップによる介入で変わってしまった歴史、というか人生を複数の立場で表現するとこうなるってことなんですかね。そこにもうひとつのタイムスリップもあって因果関係が絡み合うから紛らわしいのかもしれませんね。


【参考】
この世のすべてはこともなし−明日も彼女は恋をする 補足 ※壮大にネタばれです
入間人間WIKIイルティマニア
→パロディ元ネタも記載されてます。

*1:デロリアンではなくオンボロ軽トラだったりするけど

*2:現在に戻った「わたし」視点で玻璃綾乃と女が仲良く自転車に乗っているという描写がある。女性っぽい名前はわざとかなぁ?

*3:「僕」視点で登場するミィ婆はおそらくタイムスリップして未来から来た彼女と思われる