7期・7冊目 『ゼーランジャ城の侍』

ゼーランジャ城の侍 (集英社文庫)

ゼーランジャ城の侍 (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
寛文元年、日本は鎖国状態にあった。海のむこう、台湾ではゼーランジャ城を巡る攻防戦が激化していた。その前線で傭兵として敵、味方にわかれ白刃を交わす日本人武士団は、切支丹がゆえに帰国の望みもなく剣技だけが頼りであった。だが、徳川幕閣の密命をおびた一人の刺客が中にいる事が明らかとなった時…。歴史から葬られ、異国で血煙を浴び望郷の念をみずから斬り捨てた傭兵武士の壮絶な戦い。

寛文元年とは西暦でいえば1661年。出島が置かれて幕府による鎖国が完成し、海外渡航者は戻ったとしても罰せられるという時代。
キリシタン含め海外の日本人の多くはもはや故郷に戻ることもあたわず、現地に根を下ろすようになり、中には剣の技量をもって傭兵として働いていたという。
一方、抗清復明を目指す鄭成功は新たな根拠地として台湾攻略を目指すが、そこには旧教国に代わって東南アジアに勢力を伸ばしつつあったオランダの拠点でもあった。
そんな中で敵味方に分かれて戦う日本人の侍たちを描いた作品となります。


冒頭、城塞(ゼーランジャ城)側においてジャカルタ生まれの2世日本人守備兵の視点からの夜襲の場面、攻撃側は鄭成功軍の鉄人隊。日本人同士の激しい剣戟で幕を開けます。
そこから鄭成功軍に場面が移り、対清戦争で勇名を奮った侍による鉄人隊も相次ぐ戦により数を減らし、今や偽倭すなわち明人が多くを占めるようになってしまった。
そこで鄭成功の日本人参謀がゼーランジャ城の日本人兵引き抜き策によって、鉄人隊の強化と敵戦力の弱体化という一石二鳥をを画策するのですが・・・。
一方、幕府の高官の中には鄭成功が台湾を拠点にして今まで以上に力をつけられると利権的な意味で困る人々がいて、なにやらきな臭い動きを見せます。
ゼーランジャ城を巡る攻防戦の裏には各国の思惑が見られ、様々な立場でそこに居合わせた日本人たちの戦いが展開されるという、なかなか凝った内容であります。


そもそも鎖国によって故国と切り離されてしまった日本の侍たちというのが面白い素材であり、日本の剣術に加えて西洋・中華との異種戦闘も描かれるとなるのも異色。あえて名づければ異国時代劇と呼べるでしょうか。波乱と愛憎に満ちたストーリーも秀逸な作品でした。