7期・4冊目 『時間衝突』

時間衝突 (創元推理文庫)

時間衝突 (創元推理文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
異星人が残した遺跡を調査していた考古学者ヘシュケのもとに、驚くべき資料がもたらされた。300年前に撮られた1枚の写真。そこには現在よりもはるかに古びた遺跡の姿が写っていた。これはなんらかの詐術か、それとも遺跡が除々に新しくなっているというのか?やがてタイムマシンで過去へと旅立った彼らが見たものは?波乱万丈、究極の時間SF。

前提として、異星人の攻撃により占領され一旦は壊滅した地球文明が白人コーカソイド民族(作品内ではタイタンと称される)主導の元に再建された未来の地球。
撃退後残された異星人の遺跡を調べていた考古学者の主人公ヘシュケは、300年前に撮られたという写真には今よりもさらに古びた遺跡の様子が見られていたのを最初はたちの悪い悪戯とするが、他にも同じような写真が出てきて・・・。
タイタンによる人種差別を含む苛烈な支配を受けている世界。再び迫る謎の異星人の脅威。それに加えて時間旅行技術の確立。
一方、宇宙ステーションにおいて生産部門と娯楽・学術部門は空間的・時間的に完全に分かれて地球よりも高い文明を維持しているレトルトシティ(なぜか中国人の世界)の存在。
などと、なかなかこだわった世界設定を見せています。


やがてタイムマシンによって遺跡の謎を探るべく過去へ行く主人公たちですが、そこで同じく時間旅行中だった異星人と遭遇して被害を受けて時に流れの中で遭難してしまう。
幸いにもレトルトシティの時間旅行船(?)に救助されて、地球が直面している事態を知るのですが・・・。
結局レトルトシティの指導者によってその解決策が図られるのですが、他人種へ嫌悪と軍事力の過信によって拒否し軍事的な打開策を選択した双方の指導者の姿が虚しいです。
作品が発表された当時はまだ冷戦が完全には終結していなかったので、そういった背景もあるのでしょうか。


それにしても、いくつもタイムスリップものは読みましたが、このような斜め上*1の展開と理論には驚かされました(似たようなスケールで言えば日本では小松左京くらいかと)。
作中展開されている時間理論については正直難しかったですが、翻訳の良さもあってかサクサク読めるし、スリリングな展開もあって後半は一気に読めてしまいます。
個人的には、作中登場の時間研究家・アスカーの言う「生命が存在する"今"でしか時間は発生しない。過去も未来も死んだ時間であり、因果関係も存在しない」という主張により、タイムスリップしても別の時代には干渉不可能(よってタイムパラドックスも始めから存在しない)というのはとてもユニークで納得がいく理論でもあります。
ああ、もしそうだとしたら、終盤の時間を超えての軍事行使はナンセンスじゃね?とも思ったのですが、それも狙った意図だったんでしょうね。

*1:馬鹿にしているわけではなくて本当に出てくる