- 作者: サイモン・クラーク,夏来健次
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2004/05/28
- メディア: 文庫
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- 作者: サイモン・クラーク
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内容(「BOOK」データベースより)
いつもと変わらない日曜日だった―街の通りで、ひとりの少年が殺されるまでは。衆人環視のなか、実の母親が、息子を斧で叩き斬ったのだ。だが、この残虐な事件は単なるきっかけにすぎなかった。この日を境に、世界は一変してしまった。すべての大人が、いっせいに子供を殺しはじめたのだ!街なかでも、そして家庭でも、大人たちは血に飢えた悪鬼のように牙をむき、未成年であれば、乳幼児から高校生まで、否応なく無差別に殺されるのだ。こうして、血にそまった地獄の新世紀がはじまった。
衆人環視の中、一人の母親が斧で息子を惨殺するという事件が発生。
その日を境に大人が子供*1を次々に襲い殺戮するという現象が世界中に広まっていった世界を描いた作品。
主人公である17歳のニックはたまたま外出していた先から帰宅すると弟が無残な様で死んでいるのを目撃。街に出たところで狂った大人(主人公たちはクレオソートと呼んでいる)の集団に襲われるのですが、親友の犠牲をもって郊外へ逃れます。
同じように逃亡中だったサラとその妹たちを助け、やがてコミュニティを形成している少年少女たちと合流。使える物資を調達したり、拠点とすべき場所を探したり、と生き延びる道を模索していくという流れになっています。
当初は逃げていた子供たちもやがて武器をもって自衛するのですが、クレオソートの方はなぜか武器を持つことさえせずにひたすら肉体をもって問答無用に襲いかかってくるのが恐ろしい。
しかも始めは偶発的だったのが、やがて子供たちのコミュニティを見つけると機械もしくは昆虫のような統率と集団行動で犠牲を厭わずに襲いかかる。それは天敵を地上から消し去るようプログラムされているかのようです。*2
はじめ民主的なリーダーに統率されていたニックらのコミュニティはとあるホテルに落ち着いた途端、不良たちによってクーデターを起こされ、暴力による支配が行われるようになってしまいます。
学校をドロップアウトしてて不良っぽく装っていたものの、直感力と人望に優れるニックは周囲からリーダーに取って代わるよう勧められるがなかなか決断がつかず、ようやく愛するサラを守るために立ち上がろうとしたところでクレオソートと化した両親に拉致されてしまうという急展開。
その後、遠く離れた地でなんとか自力で脱出したニックは旅の中で他のコミュニティの少年少女と出会い、見聞を広めてこの世界の実情を知ります。
大人たちが突然狂ったのはなぜか?そしてニックはサラの元に再び戻ることができるのか?
そういった謎と期待を抱きつつ物語は進んでいき、サラの元に辿り着いて全ての決着をつけたところでラストを迎えます。
社会現象としての子殺しをテーマに扱ったといえば、永井豪の短編漫画『ススムちゃん大ショック』*3を思い浮かべます。かつ子供、というより少年少女の側でも狂った大人たちへの自衛の苦難やコミュニティ内における派閥争いなど『蠅の王』に代表される集団サバイバルの要素も濃いです。
さらにクレオソートはまだ生きているとは言え、人間的な感情は失われており、子供を殺すことのみに固執するさまは殺人鬼というよりはまるでゾンビのよう。*4
物語はニックという17歳の少年視点で徐々に物事が明らかにされるように描かれていて非常に読みやすいです。
まさに地獄というしかないほど悲惨な描写が目白押しとなっていますが、そこは生き抜くために懸命にもがくニックの心情の方が中心となっているためかあまり陰鬱ではありません。
気になったのは大人たちが狂った理由ですね。かつてクロマニヨン人がネアンダルタール人に取って替わったように突然変異による種の駆逐劇が例に挙げられています。なぜか大人が優位種となるかのような説明に受け取れたのですが、むしろ無意識の覚醒による新人類と進化する過程の子供たちを脅威と思った大人たちが滅ぼそうとしているという方が理にかなっています。*5いや、そういう意味で良かったのかな?そうでないと子孫を残していけませんしね。