6期・75冊目 『九月の恋と出会うまで』

九月の恋と出会うまで

九月の恋と出会うまで

内容(「BOOK」データベースより)
「男はみんな奇跡を起こしたいと思ってる。好きになった女の人のために」『雨恋』の著者が放つありえない恋の物語・第二弾。

写真撮影が趣味なヒロインは現像の際に発する臭いのトラブルで引っ越しを決断するが、なかなか次の部屋が決まらない。3件目に紹介されたのはオーナーの意向で本格的ではないけれど芸術的な趣味を持っているとか芸術的な要素(容姿や手腕など)を持つなどオーナーの面接に通ることが条件。ヒロインはなんとかクリアして新居に移るという出だし。
そこで体験する不思議な出来事が綴られます。
旅行代理店に勤務する27歳OLという設定ですが、引っ越しを決意したきっかけ?のクマのぬいぐるみ(ココアのバンホーテンのイメージからバンホーと命名)相手に仕事の愚痴をこぼしたり、休日は一人で風景写真を撮って歩いたり。
孤独だけど心優しい様が垣間見えて、どこか暖かく見守っていたくなる気がします。


そんな彼女と同じアパートに住む人物が順に登場するのですが、隣の平野の第一印象についていつもの如くバンホーに語っていた時にありえない場所、外に繋がるエアコンの通気口*1から声が聞こえてきたのです。
声の主は1年後の平野と名乗り(紛らわしいので以下シラノと名づけられる)、明日の新聞の見出しを言って未来にいることを信じさせ、ある頼みごとを依頼します。
それはヒロインの休日である水曜日ごとに現在の平野を尾行し写真を撮ること。
シラノは一体何のためにそのようなことを依頼するのか?
そして普通の営業マンである平野が時々見せる不可解な行動。それはまるでこれから犯罪を起こす者のイメージに近かった。


特にわくわくさせるような展開ではないものの、淡々とした語り口の良さと日常の中でのちょっとした謎が謎を呼び、ついその先が気になって読んでしまいますね。
そして突然ヒロインのもとに起こった空き巣事件。
それが実は生死の分かれ目であったのではないかという推測から、シラノなる人物の探求が始まります。その頃、隣人の平野とも親交が深まっていくのですが、ヒロインはあくまでも自分の命を救ってくれたのかもしれないシラノが気になってしまう(この時点で平野=シラノではないと自覚している)。
種明かししてみれば、なーんだといった程度ですが、SFチックな展開を見せながら暖かい気持ちになれる、読後感の良い作品でした。

*1:エアコンが苦手なために設置しないで穴があいている