5期・63冊目 『イエスタディ・ワンス・モア』

イエスタディ・ワンス・モア Yesterday Once More(新潮文庫)

イエスタディ・ワンス・モア Yesterday Once More(新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
その冬、ぼくは30年前の東京に迷いこんでしまった。隈田川沿いの古い鉄筋アパートの部屋で淡いまどろみから目覚めたとき、窓の外の高速道路は消え、柱のカレンダーには1959と記されていた。おずおずと一歩を踏みだすぼくの前に、次々と現われる見知らぬTOKYO、どこかなつかしい街と人びと…。過去と現在の衝突が生む不思議な時空を旅する青年の〈愛と冒険のファンタジー〉。

主人公は18歳の高校生にして両親は他界し、保護者代わりになっていた伯母を亡くしたばかり。そこで3億を超える遺産が手に入るかと思いきや、見知らぬ男宛てに贈与するとの遺言が見つかり途方に暮れるばかり。
そういう状況で突如30年前にタイムスリップすることになったわけです。
今の私からすれば、主人公がいる1989年こそ懐かしい思いを感じこそすれ、さらにそこから30年前の1959年というのは想像外というか別世界のような感じがします。都内各地が舞台となっていますが、私が学生として社会人として通うようになったのは1990年代以降なのでそれ以前は実感わかないし。
そのあたりは発表から21年という年月のせいもありでしょう。もし発表当時に読んだ中年以降の読者はおおいに共感を持てたのかもしれません。


高度成長期を迎える前の東京の風景はビルは少なく道は狭く、あまり都会という気がしませんが、人々の熱気は伝わってきます。ファッションや流行に関するズレはタイムスリップもののお約束です。同じ貨幣でも価格が1/10というのはやはり時の流れを感じますね。
主人公が驚きをもって触れる当時の風俗に関してはかなり細かく書かれているようです。


そして主人公はひょんなことでテレビ業界に関わり、好きだったお笑いの知識を武器に放送作家として稼ぐようになります。その過程で様々な経験をして人に出会い、恋もしてどっぷり1959年に浸かるようになる。
あれ?確か主人公の父親が没落するきっかけである、借金の保証人になる前日にタイムスリップしたので、それを防ぐために奔走するのではなかったっけ?*1
ただし、それを防いでしまうと母親と出会わなくなる⇒主人公が生まれない可能性。というパラドックスは放置されているのが最後まで気になったのですが。*2
ちょっと冴えないタイムパトロールに捕まってしまい、あわや強制送還というところで意外にこの地に留まることが許された主人公。
なにもかも無くした1989年よりも、新たな出発の地(時)として1959年を選んだようです。結局帰らない時間旅行者というのは珍しいかも。

*1:前半の展開や伯母に好かれるところとか、「バック・トゥ・ザ・フィーチャー」っぽさを感じた。ちょうど年も同じだし

*2:続編にこの件は持ち越しらしい