5期・34冊目 『警察庁から来た男』

警察庁から来た男 (ハルキ文庫)

警察庁から来た男 (ハルキ文庫)

内容(「MARC」データベースより)
北海道警察本部に警察庁から特別監察が入った。やってきたのは警察庁のキャリアである監察官。キャリアのプライドか、ノンキャリアの意地か。「うたう警官」に続く、道警シリーズ第2弾。

『うたう警官』(文庫では『笑う警官』)の続編にあたるシリーズ。
冒頭すすき野で起こったタイ人少女の人身売買がらみの拉致事件が表沙汰となり、国際問題にも発展して警察庁から監察官・藤川が札幌に派遣されます。かつての道警を揺るがした郡司事件によって刷新されたはずの組織にはまだ見えない腐敗が残っているのではないかと。かつて「うたった」津久井刑事が協力者となり、調査を進めていくのですが・・・。
ほぼ同じ頃に風俗営業店での「会社員転落死事故」が発生。何の事件性もなく処置されたことに不満を持った遺族が自ら現地での調査に入ったところ盗難に遭い、登場するのが『うたう警官』主人公の佐伯刑事というわけなんです。


前回の劇的な幕切れの後、左遷されて鬱々とした日々を送っていた津久井と佐伯の二人がそれぞれの事件で追っていく中で、別々に見えた線が繋がり、やがて長年道警内部に巣くっていた組織的な癒着が見えてくるという、期待を裏切らない巧みな展開を見せてくれました。
今まで読んだかぎりでは、著者は登場人物に関してはあまり深く掘り下げないのが特徴のように思うのですが、今回は藤川の芯の通った潔癖さに比して、道警上層部の保身ぶりは際立って見えますね。それにわが道を進んで獲物を追い詰める佐伯の活躍が面白い。
さらに警察だけじゃないけど、公務員にありがちなキャリアとノンキャリアの違いの大きさが垣間見れる部分もあって、それがさりげなく警察官と言えどもささやかな欲望や心の弱さも持つ普通の人間だという主張にも読み取れます。


それにしても警察という組織は結束が堅いそうで。それが防犯や犯罪捜査といった本来の目的に向かうのであれば良いのですが、時には内部不正への庇いあいやセクションごとの無駄な対抗意識にも発揮されてしまうのも、残念ながらありえるようです。
そこはフィクションであるものの、派手な設定や演出を排した堅実で読み応えある警察小説を書いてきた著者ゆえ、こういう組織不正の摘発といったテーマこそ合致しているんでしょうね。