5期・19冊目 『花はさくら木』

花はさくら木

花はさくら木

内容(「BOOK」データベースより)
江戸時代中期・宝暦十一年。京・大坂を舞台に、即位前の女性天皇・智子内親王(後桜町)、権謀術数の田沼意次が活躍する。人・歴史・地理があやなす華麗な恋と冒険のとびきりの時代小説。

徳川家康以来の米中心の経済政策ではなく、時代に沿った自由経済重商主義を唱えた田沼意次。一般的に言われるような欲にまみれた悪徳政治家*1ではなく、旧弊に拘らない清清しささえ感じる人柄として書いたのは別に意外でもなかったのですが、登場する人物と設定には従来の時代ものに囚われない奔放さがあって、結構驚かされる内容でありました。
江戸期の話でヒロインの一人がそもそも内親王というのも珍しいですが、京・大坂を舞台に川を中心とした水運、特に大掛かりな閘門が鍵を握るのが新鮮で面白かったです。そもそも陸運を人馬に頼っていた時代では、川は重要な輸送経路だったのは江戸も同じですからね。


その水運業を一手に握る豪商・北風組の一人娘・菊姫がもう一人のヒロイン。智子内親王とは身分を超えた友情を持つという設定。
しかし、物語が進むうちに彼女の出生の謎に何やら異国の策謀が関係したり、銀の為替の仕組みを変えるために京阪に乗り込んできた田沼配下と北風組との暗闘の合間に若き侍・青井三保との恋が始まっちゃったり、さらに宋代の幻の絵画が登場して京の一流の文人たちがびっくりしちゃったり、お忍びで大坂に遊びに行った智子内親王がちょっとスリリングな目に遭ったり。
とにかく長編の割には飽きさせないサービス精神に富んだ内容とも言えますが、ある意味せわしなさもあり、ラストは秀吉の普請道楽の謎を明かす巨大な地下水路を登場したと思ったら、あっさり始末がついちゃったりしたのは肩透かし。黒幕としての北風組のスケールの大きさを描いた割には結末が情けなかったですね。
あと、全体的な描写は情緒あっていいのに、なんで呼称が名字のみだったり、やたら会話が現代風なのかが不思議でした。それだけに時代劇のセットを借りた現代風冒険恋愛活劇のようにも感じましたね。

*1:だいたい賄賂が当たり前の時代に田沼だけ責められるのがおかしい