太平洋戦争終盤、日本軍に特攻以外に取りうる戦術はあったか?

【航空司令官の苦悩】 太平洋戦争終盤において、日本では航空機による組織的な体当たり作戦、いわゆる特攻が行われました。 もし当時の日本軍に特攻作戦を封じた場合、代わりにどのような戦術が取りうるでしょうか? ・昭和19年中盤以降(マリアナ海戦以降)の状況から考えてみてください。戦局を覆すのは無理でも、死を約束された攻撃以外に取れる手段があるでしょうか? ・陸軍海軍の区別は特にありませんが、航空攻撃を主として考えてください。 ・当時の状況下で可能そうな機材の改造・転用はOKですが、技術的に実現不可能な方法(「富嶽」やジェット/ロケットエンジン機を運用する、みたいな)は避けてください。 ・降伏、同盟などの政治的手段のみ書いた回答は不可です。 ※ここでは、特攻についての是非はあえて問いません。あくまでも歴史のIFとして考えてもらうための質問です。
初めて航空機による組織的な体当たりが実施されたのが昭和19年10月。レイテにおいて第一航空艦隊の司令官・大西瀧治郎海軍中将*1が発令したことは有名ですが、自分を犠牲にして全体を生かそうとする自発的な体当たりは既にあったことや、体当たり攻撃の研究と特攻専用兵器の開発は前年から中央で行われていたことで、たとえ大西ら現場の指揮官が反対しようといずれ強行されていたであろうことは予想されます。
たまたま初期に戦果を挙げてしまったことから、たちまちの内に当たり前の攻撃方法として広まっていったのはよく知られているとおり。
そのあたりの話は長くなるので省きますが、日本軍の航空戦力は度重なる戦闘による消耗でベテラン搭乗員が激減、そして航空機開発の遅れ(主にエンジン)により質量ともに落ち込んでいき、高度に発達した米軍艦隊の防空システムの前では損害が増えるばかり。今までの急降下爆撃や雷撃ではもはや自殺に近くなっていた中、果たして昭和19年後半以降の日本軍に特攻以外に取りうる手段はあったでしょうか?
以前から特攻に関する書籍を読んでいて抱いた疑問ではあるのですけど、やはり難しいだろうな、としか思えませんでした。
それで難問と承知の上でしてみた質問だったのですが、「なるほど」と思う手堅い方針もあれば、「その発想は無かった!」というのまでいろいろ回答をもらいました。
Baku7770さん、sdkfzさんを始めとする優れた回答を前にして私の浅い考えを書くのは恥ずかしいものがあるのですが、コメントしてしまった以上、後に引けなくなってしまったので内容を下記に晒します。




第二次世界大戦時の航空機による対艦攻撃の方法は大きく分けて、三種類ありました。

  1. 水平爆撃
  2. 急降下爆撃
  3. 雷撃(魚雷)

第4の方法として欧米にて研究されていて、後に日本にも伝わったのが反跳爆撃(スキップ・ボミング)という方法。
日本にとっては、ビスマルク海海戦、いや「ダンピールの悲劇」として知られています。
実は日本軍も実施しているのですが、戦闘機による護衛がうまくいかなかったこともあって攻撃する前に爆撃隊が壊滅。別途行われた特攻の方が空母撃沈という戦果*2を挙げてしまったためにその後行われることはありませんでした。
質問を実施する際にこれを日本軍がもっと周到に準備しておこなっていたらどうだろうと思ったものです。*3
ただ、調べてみると近距離まで接近しなければならないのは雷撃と変わらないので、そのままでは被害が増えるのは必至。なので練り直しは必要です。

  • 機体は通常の爆撃機甲型)と機首に多数の機銃を備えた銃撃機(乙型))の2種類。
  • 低高度飛行によってなるべくレーダーに引っかからないように接近し、そのまま攻撃に移る。
  • 乙型が先導して敵艦船の対空砲を掃討、輪形陣の穴が開いた箇所より甲型が爆撃を実施する。
  • 攻撃時はなるべく空母の撃破と輸送部隊を狙う(そのためには彩雲やレーダー搭載機による偵察の強化は必要)。
  • 専用の機体を開発せんでも既存機の改修で済むと思うが、理想として速度もさることながら、防御を重視して生存率を高めたい。
  • 乙型爆撃機を改造するより、英・オーストラリア軍が使っていたようなブリストル ボーファイターのような、双発重武装の戦闘機の方がいいかも。ただしその場合、対戦闘機性能はあまり当てにならないので、単発戦闘機の護衛は当然のことながら必要。*4
  • 昭和19年後半での既存機では、甲型候補は陸軍:九九式軽爆、百式重爆(呑龍)、四式重爆(飛龍)、海軍:銀河。乙型に戦闘機使うなら二式複戦(屠龍)の襲撃機タイプ(キ102乙)や月光くらいかなぁ。むしろ昭和19年末以降なら海軍は銀河で甲・乙タイプを揃えるのも良さそうだけど量産と整備に難有り。


陸軍の方が爆撃に合う機体があるが、問題は空中勤務者が洋上航法を苦手としていること。
そこは海軍が誘導と護衛を主担当とし、陸軍の戦闘機は基地の防空を主とする、などそれぞれの得意不得意に合わせて補い協力すればうまくいくのではないかと思うのです。夜間は少数精鋭による嫌がらせ攻撃を実施して、相手を休ませないのもいいですね。
まぁ、最初の数回うまくいったとしても、米軍のことですから特攻と同じく対策を立てられて、その内被害が増えていくのは予想つきます(台無し)。
でも、参加兵力の割には戦果が出なかった台湾沖航空戦を無かったことにし(基地はやられても機材と人材は温存する)、フィリピンに押し寄せた米軍の後方部隊に対して護衛機合わせて数百機の規模で攻撃を実施。関行男大尉に「爆弾命中!(護衛)空母撃破!」と言わせてみたいものです。

日本軍の小失敗の研究―現代に生かせる太平洋戦争の教訓 (光人社NF文庫)

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第二次大戦航空史話〈上〉 (中公文庫)

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*1:大西自身は自ら「外道の統率」であると認識していたが、アメリカ機動部隊の航空戦力を一時的に麻痺させるためにやむを得ず実行を命じた。

*2:実際は護衛空母正規空母と誤認

*3:元ネタは三野正洋氏の『日本軍の小失敗の研究』。更にその大元は秦郁彦氏の『第二次大戦航空史話』だったりする。

*4:P-38ライトニングみたいな贅沢な機体が欲しいところね