5期・12冊目 『白夜行』

白夜行 (集英社文庫)

白夜行 (集英社文庫)

出版社/著者からの内容紹介
19年前の大阪の質屋殺し。迷宮入りしたこの事件に関係した少年と少女が歩んだ道は…。絶望の白い光の中、魂の荒野を行く男と女を、叙事詩的スケールで描く傑作ミステリー長篇。

冒頭の質屋殺しに端を発した事件は幾人かの容疑者が浮上するもののアリバイや交通事故死によって迷宮入り。その被害者の息子である亮司と重要参考人ながらも不可解な自殺(?)を遂げた女性の娘・雪穂が成長していく様を描いています。ただし、あくまでもその二人の周囲の人間の視点から描くだけで、二人の心理描写はまったく排除してあるのが特徴です。
一点の隙もない美少女として日の当たる道を往く雪穂と、裏稼業に手を染める亮司。二人にはいつもいわくありげな陰が垣間見え、何かしらの接点があることが伺えます。
その特徴は物語が進むに連れてはっきりとしていき、雪穂の美貌の影に隠れた胡散臭さを疑う人物が現れ、あと少しのところまで辿りつきそうになるのですが・・・。
周囲の人物を脅し、騙し、苦悩と絶望を味わいさせ、しまいには殺すに至る。
雪穂を脅かす存在の人物は必ず不幸になっていくさまに人為的な手管がみえみえであり、ここまで嫌われる要素溢れるヒロインはそういないんじゃないでしょうかね。
しかしそう読者に思わせておいて、執念深く事件を追っていた笹垣刑事により冒頭の事件の真実が明かされる。その展開の凄さにはしてやられました。


実は最後の方になってわずかですがタイトルにちなむであろう雪穂の心情が吐露されてます。

「太陽の下を生きた事なんかない」
「でも暗くなかった。太陽に代わるものがあったから。太陽ほど明るくないけれど、あたしには十分だった。あたしはその光によって、夜を昼と思って生きてくることができたの」

いみじくもハゼとエビの共生関係に例えていた笹垣だけが彼らの関係を言い当てていたのですね。
二人をここまでモンスターとして成長させる必要があったのかどうかは疑問は残りますが、人の心の醜さ・暗さをとことん突き詰めている点では印象に残る作品でしたね。