4期・73冊目 『深泥丘奇談』

深泥丘奇談 (幽BOOKS)

深泥丘奇談 (幽BOOKS)

内容紹介
誰も見たことのない「綾辻行人の世界」
京都の奥には、何かが潜んでいる・・・。深泥丘病院の屋上で見た幻鳥、病院の地下へと続く階段、痛む歯、薄れゆく街の記憶・・・作家である「私」がみた日常が一瞬にして怪談に変わるとき、世界は裏の顔を表す!

後書きにあるように古き良き京都をモチーフにした作品であり、闇の中に魑魅魍魎が潜んでいても不思議ではなく、それを自然のものとして受け入れてしまうような雰囲気を醸し出す深泥丘の地。
そこに長く住んでいながら、古くから伝わる慣習や地理についての知識がなぜか欠落している主人公。「そんなことも知らないの?」自分だけが取り残されているのも現代においては大いなる恐怖ですね。


そして、やはり病院が主な舞台となるだけに体にちなむ章に怖さを感じました。
立っていられないほどの激しい眩暈に襲われたのをきっかけに山中にある深泥丘病院に通い始めた主人公なのですが、病院の職員や施設内からして何やら怪しい雰囲気。そして風邪・不眠・耳鳴り・酷い歯の痛みなどなど次々と体調不良を訴える主人公。
単なる加齢やストレスとも言い切るには不自然で、数々の怪奇体験と合わせて何か明かされていくのかと思いきや、まるで何も無かったかのように(単に主人公が幻を見たかのように)別の話に転じて唐突に終わってしまうのです。


物語と合わせて描かれる挿絵といい、それぞれのエピソードが組み合わさって幻想的な雰囲気としては充分堪能できるのですが、読者の抱く「なぜ」の答えは一切書かれず終わってしまうのでやや不満が残ってしまうのでした。
ミステリとは違い、謎は謎のままで雰囲気を楽しむ人向けですね。